スコ猫くまきち日和+ -2144ページ目

自閉症のよっちゃんのこと

彷徨っているうちに『自閉症児の姉に生まれて』にたどり着いた。
"自閉症にまつわる誤解を解くためのプチ運動"を展開中だったので、
わたしが出会った自閉症の人のことを書いてみようと思う。

よっちゃんと出会ったのは、佐世保の施設『なずな園』。知的障害者との共生を説いた近藤原理先生の私的な施設だ。
小高い丘の中腹あたりで車を降りると、畑の脇に木造の民家があった。
『なずな園』とは呼ぶものの、近藤夫妻の家をそのまま施設として使っていた。
大人の知的障害者、発達障害者など5~6人が一緒に暮らす家だった。
玄関に入ろうとすると、どこからともなく丸顔の男性が現れた。
よっちゃんだった。当時30代半ばぐらい。
よっちゃんは、ちょっと恥ずかしそうにうつむきながら、
ジリジリとわたしとカメラマンに近づいてくる。
「こんにちは」と、言っても「こんにちは」と返さない。
そのままジリジリと近づいてきて、こう聞いた。
「名前はなにね」
「は……」
わからなくて聞き返してしまう。
「名前はなにね?」
よっちゃんは全く同じ口調で繰り返した。
「あ、ぷれこです」
すると、よっちゃんは「ぷれこ、ぷれこ、ぷれこ……」と、ブツブツと繰り返しつぶやき、つぶやきながら、少し私たちから離れ、また、ぶつぶつと繰り返しながら戻ってきた。
そして、聞く。
「年はなんぼね?」
「28歳」(当時)
「ぷれこ、28歳、ぷれこ28歳、ぷれこ28歳……」
よっちゃんは繰り返しながら、私たちから離れると、また戻ってきて聞く。
「何年生まれね?」
「昭和○年」
「戌年」
よっちゃんは即座に干支を答え、また聞いた。
「何月何日生まれね?」
「どこから来たとね?」
すべて聞き終えると、
「ぷれこ、28歳、昭和○年○月○日生まれ、東京」
と、全部つなげて繰り返した。
あやしくなると何度でも聞きに来たけれども、
一度覚えてしまうと何年経っても忘れないのだそうだ。
この特技を生かして、よっちゃんは施設の受付係を拝命していた。
お客さんの名前、何歳か、生年月日、どこから来たのかは、
すべてよっちゃんの頭のなかにある。
芳名帳など必要ないのだ。

映画『レインマン』でダスティン・ホフマンが演じた自閉症の男性は
よっちゃんにとてもよく似ていた。
レインマンは数字に強かった。
よっちゃんは数字と干支の組み合わせに強かった。
よっちゃんに古今東西の有名人の名前をいうとサッと干支を答えてくれる。
ベートーベンはねずみ、モーツァルトはヘビ……だったっけな? 逆かな?
わたしの記憶が曖昧でダメだけど、後で調べてみたら、
よっちゃんの言ったとおりでビックリした。

自閉症といっても自分を閉ざしているわけではない。
やり方さえわかれば、コミュニケーションはちゃんととれる。
いわゆる「ひきこもり」とは全く違う。
わたしの理解の仕方は以下のとおり。
家族から見ると、少し違うという部分もあると思うのでので、
そこはufoさんに突っ込んでいただくとして、とりあえず書いてみる。

当時はまだそれほど自閉症は知られていなかったけれども、
脳の発達障害ということはわかっていた。
発達の仕方が違うのだ。
発達していないわけじゃない。
よっちゃんは、記憶と数字と干支(これはなぜだかわからないけど)を司る脳が
非常に発達していた。
もちろん同じ自閉症といっても少しずつ、みんな違う。
偏った脳の発達をするために、ある部分が特異的に伸びれば天才になる。
共通しているのは、コミュニケーションが難しいということ。
感情の受けとめ方やものごとの感じ方が違うので、
なぜかわからないところでパニックを起こすこともある。
でも、そこにはちゃんと理由がある。
初めてのことに遭遇するとものすごい恐怖なのか
パニックを起こして暴れてしまったりするそうだ。
でも、なぜパニックを起こしたのかがわかれば、対処ができる。
だから、自閉症の子供をもった家族は、その子と真剣に向き合い、
その子の個性を見極めながら生活していく。
どこが人と違って優れているのか。
何が苦手なのか。
何がいちばん大切なのか。
いわゆる「フツーはこうだ」というのは通用しない。
自閉症の人はそれを言葉で表現することがない。
それを家族が理解し、自閉症の人のそれぞれの特徴に合わせて
普通の生活に慣れさせていく。

自閉症はある意味、個性なのだ。
たとえば、毎日通る道がちょっとでも違うと
パニックを起こすという個性の持ち主なのだ。
そこを理解できれば、毎日同じ道を通れないときに
どうすればパニックを起こさないのか、対処できる。
自閉症児と暮らすには、個性を見つめる作業がとても大切なのだなと思った。
もちろん、長い年月が必要だし、家族にとっても自閉症児本人にとっても、
大変な闘いの日々だと思う。

「自閉症」という字面だけ見て、間違った意味で使う人たちが多いそうだ。
家にとじこもりがちな人だとか、自分を閉ざした人だとか、
心に問題がある人のようなとらえ方をする人が多い。
そんな誤解は、家族からすれば、とても辛いことだろう。
繰り返すけども、自閉症というのは、その人がもって生まれた個性なのだ。
問題があるわけじゃなく、そういう人なのだ。
本来、そういう人なんだから、お医者さんでも治せない。
治すことが必要なわけではなくて、その個性を理解して伸ばし生かしていくのだ。

だから、自閉症の家族をもった人は、今、盛んに言われる
個性を伸ばす教育のエキスパートになっているんじゃないかと思う。
個性を受け入れ、それを伸ばすエキスパートなんだと思う。

よっちゃんは、受付係に使命感をもっていた。
誰が来てもいちばん最初に声をかけることに燃えていた。
受付係に任命した近藤夫妻が、
彼の個性を見極め、理解したからできたんだと思う。
何年か経ってから、電話で話したことがある。
近藤先生はこう言っていた。

「今、よっちゃんが隣で聞いていて『ぷれこさん、33歳、昭和○年○月○日生まれ、戌年』って言ってますよ」

よっちゃんは、丸暗記していたんじゃなく、
ちゃんと経った年数だけ年の数を追加していた。
「やられたな」と思いつつ、胸のあたりが温かくなった。


□自閉症児の姉に生まれて(ufoさんのページ)
□社団法人 日本自閉症協会
  自閉症について→我が家の光くんclick♪ 4コマ漫画で自閉症児との
  生活が楽しく、わかりやすく描かれています。
□自閉症ノブの世界
□あたらしい自閉症の手引き
□これってどうよ?の関連ブログ
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