まだ日本が戦争をしていた頃のお話です。


ある港町に、フミコちゃんという女の子がお母さんと幼い弟や妹たちと仲良く暮らしてしていました。

大好きなお父さんは何年も前から戦争に行っていて帰ってきません。


あるとき、フミコちゃんは学校のお友達とケンカをしてしまいました。

帰り道、今にも泣きだしそうなのをがまんして、弟や妹たちに泣き顔を見せないように回り道をして、わざと時間をかけてお家に帰りました。


「ただいまぁ」 大きな声であいさつをして、何事もなかったように元気に帰ってきました。

「フミコ、どこいってたの!!」奥からお母さんが怖い顔をして出てきました。

フミコちゃんはお母さんが何で怒っているのかわかりません。


「お父さんが帰ってきてたんだよ!いまのいままで、フミコはまだかぁまだかぁって待ってたんだよ!!」


お父さんの乗っていた大きなお船が、たまたまお家のそばを通ったのです。

同じ港町の人も何人も乗っていたため、船は特別に港に寄ってくれ、それぞれの家に家族に会いに帰ってきていたのです。

でも、家に帰ってもゆっくりすることはできません、時間は限られていたのです。


「お父さん!」 フミコちゃんは急いで港に向かいました。

せっかく今まで我慢していたのに、涙が次々に流れ落ちます。

フミコちゃんは大きな声で泣きながら港に走りました。


フミコちゃんの住んでいるのは、入り江に面していた小さな港町です。

お父さんの乗っている船はすでに岬の向こう側に行ってしまい、もう見ることはできませんでした。

「お父さーん、お父さーん」 フミコちゃんは岬の向こう側に向かって何度も何度も、暗くなるまでお父さんを呼び続けました。


それから少しして戦争は終わりました、日本は戦争に負けてしまったのです。


フミコちゃん達はお父さんの帰りを今か今かと待ちながら、何度も港に迎えに行っていました。


そんなフミコちゃんたちに届いたのは、小さな白木の箱とお父さんの戦死通知でした。



これは、今は亡き私の母の幼い頃の実体験です。

何度も何度も聞かされた、母の辛い戦争の記憶です。