初秋の風がグラウンドに吹く高校3年の秋、暑かった僕らの夏は終わり、虚無感と喪失感から物憂げな毎日を過ごしていた



高校時代県内では有数の進学校に通っていた

でも特別勉強が出来た訳ではない

学年でも中の下

勉強は嫌いだった

高校時代、僕が心血を注いだのは野球だった

入学前から野球部に入るんだと決めていた

スポーツも特段出来た方ではない

ただ野球が好きだった


入学して数ヶ月が過ぎたが、文武両道を目指すのは僕には難しかった

勉強を取るか、野球を取るか選択を迫られていた


数日悩んだが野球だけを頑張ると決意した

勉強なんて大人になっても出来る

このチームメイトと一緒に白球を追いかけていたい

そんなカッコいい事を思っていたのを今でも覚えている


勉強もろくにせず、もちろん恋愛なんてもってのほか

高校時代の思い出はほぼ野球で埋め尽くされている

レギュラーにもなれたし、怠惰癖のある僕が本当に頑張ったと思う


そんな野球少年にも終わりの日が訪れる

甲子園に行ける球児なんてほんの一握り

僕達は地区予選で敗退


野球部以外でも部活道が終わった生徒が多数で、今までの鬱憤を晴らすかのように楽しむ者もいれば、まだ本当に部活が終わった現実を受け止め切れていない者

人の性格が色濃く出ていた

僕は間違いなく後者だった

監督に怒られる夢、エラーをした夢、チームメイトと練習している夢

暫く夢か現実か分からない日が続いていた朝起きて筋肉痛に悩まされてない時に

「あぁ、もう終わったんだな」と少し実感した





話を文頭に戻そう


受験に向けて少しずつ勉強に気持ちを入れ替え始めていた9月、学校では一大イベントを迎えようとしていたー




文化祭である!!


1,2年生の時は先輩に迷惑をかけないようにと遠慮していた僕達も今年は遂に主役!

文化祭の3日間だけは普段の勉強モードを忘れて思う存分楽しめる!


普段面倒くさい事はしない男子達も喜々として作業に参加する

皆んな当日が楽しみで仕方がないのだ

僕もそんな中の1人だった



しかし、ここで問題が発生する


僕の高校の伝統で、文化祭期間中に

『クラス対抗百人一首かるた取り大会』

なるものを行う習わしがあった



話は難しくない

1学年6クラス、それが3学年あるので計18クラス

その18クラスの代表がトーナメントを行い、優勝を目指すと言うものだ

1点、普通のかるた取りとは違うのは11で戦うのではなく、22のダブルスと言う事である


競うのは良いが百人一首かるたとはセンスなさ過ぎるよな

と高校生ながらに思った



クラスのメンバーで集まり、クラスの代表を決める話し合いが始まる

勿論誰もやりたがらない

当然だ、誰が好き好んで文化祭の楽しい時間を百人一首かるたに割くものか

そもそもルールも知らねーし僕達は理系だ


早く誰か手挙げろよ


皆んな同じ事を思っていただろう


ただただ時間だけが過ぎていく


このままでは埒があかないと思ったのは担任の先生だった

先生が重い口を開けた


「このままでは話が進まない、なので先生が決める。」


嫌な予感がした


「かるたは野球部の2人にしてもらう!いいな?」


………


決めあぐねる事があった時は野球部が率先して皆んなの前に立つ

そんな暗黙の了解があった


はい or YES で答えるしかなかった


僕は理系だ

はいと答えた


クラスに野球部はもう1人いた

名をTと言う


クラス会議が終わりT2人で作戦会議を行う

まずは百人一首かるたのルールを確認する


普通のかるたとは違い上の句、下の句と言うものが存在する

上の句が詠まれ、それに対応した下の句が書かれたかるたを取るらしい


つまりただの反射神経だけでは勝てない、上の句と下の句を正確に覚えなければならないのだ


本番まで3日程しかなかった

とてもじゃないけど全部は覚えてられない

なにせ僕は理系だ


どうしたものか

困りながら帰宅の途に就くとき僕は雷に打たれたかのような衝撃を覚えた


とんでもない事を閃いてしまった



ー半分ずつ覚えれば覚える量が半分になるー




素晴らしい発見だった


彼のアンドリュー・ワイルズもフェルマーの最終定理を証明する際、散歩をしている時に最後の難問を解く糸口を見つけたと言うではないか


まさにそれだった



早速T2人で役割分担をし、暗記に取り掛かる


自分の才能が怖かった

うる覚えながらもほぼ全て暗記したのである



ちなみに当日になって分かった事たが、他のクラスの理系の連中は1つも覚えていなかった笑




3日後ーーー決戦の日


僕のクラスは34

13組は文系、46組が理系、その中でも3,6組は優秀クラスとされていた


最大の敵は文系の優秀クラス33組だろう



高校時代、一度も踏み入れたことのない厳かな和式の部屋に案内される

(案内されるまでその部屋の存在さえ知りませんでした…)


入室し壁に貼られたトーナメント表に目をやる


……っ!!?


僕は青冷めた


33組の名前の欄には百人一首かるた部の生徒の名前がっ!!


そう、僕の高校には百人一首かるた部が存在していた

しかも全国大会に度々出場する程の腕前なのだ

3組の奴らはそんな猛者共をこの文化祭と言うお祭りの舞台に送り込んできたのだ



……まさに絶望だった


ワンピースで言うならカイドウ

鬼滅の刃で言うなら鬼舞辻無惨

HUNTER×HUNTERで言うならメルエム

ドラクエで言うならエスターク

はじめの一歩で言うならリカルド・マルチネス

ドラゴンボールで言うならフリーザ

プリキュアで言うならジャアクキング




……僕とTは戦う前から負けていた

いや、実際はまだ戦いも始まってもいない

気持ちが完全に飲み込まれていただけなのだ



そんな時、野球部の顧問の言葉を思い出した




『あきらめたら そこで試合終了ですよ?』




………………そうだ先生、僕達はどうかしていた。まだ野球を終えて2ヶ月弱だと言うのに挑み続ける事の大切さを忘れていました。」


僕は我に返った。


幸いにも33組とはトーナメント表で違うブロック

当たるのは決勝だ

それまでに流れを掴み、最高の形で戦えば僕達にだって勝機はある!



大会が始まり、理系のクラスは次々に敗退していく

これがトーナメントの怖さっ!

失敗は許されないっ!

敗れていった同志の為にも負けられない!!


僕は甲子園を目指した地区予選と重ねて合わせていた

(負けた理系の奴らは僕達の試合を見る事もなく陽キャのバンドを見に行きました)


僕達は快進撃を続けた

あまりの強さに周りの人間がざわつき始める

まさにダークホース!!

圧倒的笑い飯状態!!



そして遂に、決勝まで駒を進めたーー



下馬評では圧倒的に不利な状況だった

しかしゾーンに入った僕達を33組のラオウ・カイオウの2人でも止める事が出来なかった


かるたの8割を制圧し快勝(マジです)

途中から相手は涙目になっていた

3年間かるたをし続けて、こんな訳の分からない野球部に負けそうになっているのだ

無理もない

でも僕達は手を抜かなかった

勝負の厳しさを分かってもらいたかったのだ




100年近く歴史のある僕の高校でもド素人の野球部が優勝したのは初めての事だろう


文化祭の閉会式で僕達は表彰された


図書カード2000円分と手作りの表彰状を受け取る



ボサボサに生え散らかした坊主とも呼べない頭2つが誇らしげに壇上に立っていた