休日の13時。村上の声で目が覚める。「カップ麺作るけど、何食べる?」「カップヌードル。」「どん兵衛しかないねん。」「じゃあ、きつね。」「おっけーぃ。」
せっかくの休日に昼まで寝てしまった喪失感を抱きながら、休日くらいゆっくり寝てもいいよねと自分を納得させる。ソファに沈み込み、テレビをつけると、かわいらしい女性アナウンサーがおいしそうにパンケーキを食べている。自分が売れたとき、こんなに美味しそうにパンケーキを食べれるのだろうか。パンケーキなんてどこで食べても同じだなんて思っているのを、外に出さずに演じきれるだろうか。楽しそうなフリ、悲しそうなフリ、〇〇なフリが出来るのが大人だと誰かが言った。私は大人になりきれているのだろうか。
そんなことを考えている間にお湯が沸いたようだ。村上は慣れた手つきでフタを剥がし、火薬を入れ、カップ麺の線までお湯を注ぐ。そして椎名林檎の「能動的三分間」を歌い始める。今ではすっかり聞きなれたが、最初に聞いた時はいきなりふにゃふにゃ言い出して何事かと思った。村上なりに英語で歌ってるつもりらしいが、全く聞き取れない。その上、彼女の機嫌で曲のスピードが変わるので、出来上がった麺は硬かったり、逆にふやけてたりする。ちゃんとタイマーで測ったら?と提案したこともあるが、3分間楽しんだもん勝ちやで!とビックスマイルで言われては敵わない。そんなわけで、私たちの家では村上の能動的三分間ライブが定期的に開かれる。
村上が歌い終え、自分のカップ麺だけ持ってこちらにやってくる。「私んは?」「あんたのきつねは5分やで。」「はぁ?」私はソファから立ってきつねの元へ駆け寄る。確かに5分です、と書かれている。「これあと何分なん?」「わからん。」「はぁ??」私は何分たったかわからないどん兵衛きつねの前で立ち尽くす。絶対3分は経ってるやろ、でも村上の歌なんか信用できひんからな…。さっきのやり取りで1分?じゃあ4分は経ってるか?そしたらあと1分待つか。でも向こうに持ってく時間とか考えたら1分経つか……。ああもう、今食うわ!
私は半分開いたフタを勢いよく剥がし、スープの粉を入れ、これまた勢いよく混ぜた。そして麺をすする。かたい。芯が残ってる感じがする。私の決死の判断は間違っていたようだ。睨みつけるように村上の方を見ると、満足そうな顔でたぬきを食っている。もう半分はない。こいつを恨んでもなんにもならないことは知っている。むしろ愛しさすら感じる。恨むべきは、5分。お前だ。即席麺は3分と相場は決まっているんだ。
あーあ、売れたい。売れて昼にパンケーキ食べたい。そしたらこんなきつね野郎に騙されずにすむ。そんなふうに考えながら、既に食べ終わった村上の隣で油揚げを食べる。かたい。