英AstraZeneca社が開発中の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチン(AZD1222、旧開発番号:ChAdOx1 nCoV-19)について、米国で実施中の第3相臨床試験を自主的に中断していることが明らかになった。2020年9月9日、AZ社の日本法人であるアストラゼネカの広報担当者も、本誌の取材に対し、自主的な中断の事実を認めた。ただし、「詳細が分からず、ワクチンの安全性を結論するのは時期尚早」と業界関係者は冷静になるよう呼びかけている。
自主的な中断は、米The Boston Globe社が立ち上げたヘルスケア・ライフサイエンス系専門メディアのSTATが、2020年9月8日(米国時間)に報じたことで明らかになった。STATの記事によれば(1)英国で実施された臨床試験の被験者に深刻な副作用が認められた、(2)AZ社は、実施中の臨床試験に関する通常の対応として、安全性のデータを精査するため、臨床試験でのワクチン接種を一時的に中断している、(3)副作用の詳細や発生時期は現時点で明らかになっていないが、被験者は回復する見込み――だという。
本誌の取材に対し、アストラゼネカは「現在、情報を収集しているところで、詳細はまだ分かっていないが、米国で3万例を対象に実施中の第3相臨床試験を中断しているのは事実だ」(広報担当者)と回答した。ただし、副作用の詳細などについては明らかではなく、また、中断されているのが、米国での第3相臨床試験だけなのか、他にもあるのかは不明。アストラゼネカは2020年9月から、日本でもAZD1222の第1/2相臨床試験を開始したところだが、「それについても、情報収集後、対応を検討する」(広報担当者)という。
もっとも、製薬業界において臨床試験が中断されることも、中断された臨床試験が再開されることも、珍しいことではない。また、今回は、規制当局のを命令を受けた差し止めではなく、AZ社の判断による自主的な中断であることも踏まえると、異例のスピードで開発が進められる中で、より慎重に安全性について精査していると捉えることもできる。「いずれにせよ、副作用の詳細も分からない現段階で、AZD1222の安全性について結論するのは時期尚早。今は、AZ社から詳細が説明されるのを待つべきだと言えるだろう」と業界関係者は話していた。