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今からちょうど40年前の3月
私はこのバスセンター8番乗り場から就職先の東京へ旅立った
君はその両目に涙を一杯ためて
そして小さく手を振ってくれた
私は二人の将来を誓い手を振り返した
当時とほとんど変わらないこのバス乗り場が
40年の時を忘れさせる
まるであの時の君がそこに立っているようで

ここへ来るのは
お願いをしに来るのではありません
お礼を言いに来ます
お正月とも限りません
むしろ参拝客が少ない日に来ます
与えられた環境の中で
精一杯生きること
それが私を成長させ
幸せにしてくれています
そのお礼の気持ちを伝えるため
また
ここへ足を運ぶのです

ほろ酔いの頬には冷たい雪さえ心地良い
もうあれから何年になるかな?
凍った歩道で滑らないよう慎重に歩く
私の左腕には君の両腕がしっかりと絡み
時にその両腕に力がこもる
寒いね~
君の口癖がよみがえる
何度も重ねたこの景色
もうあれから何年になるかな?
君のいない冬を何度も乗り越えてきた
なのに
今夜はなぜか
左腕の軽さに違和感さえ覚えた夜だった

あなたが選んだ被写体を
私が撮影した 想いでの画像
あなたと出会ったことに
後悔はない
街角で見つけた このキャンディ
その表現を私に託した
そう
あなたが選んだ被写体を
私が撮影したからこそ 想いでの画像として
あの頃の楽しかった出来事とともに
私の記憶の奥底に 色あせることなく
こうして残っているのだ

人は出生するとすぐ大泣きする
母体から離れるのがそんなに悲しかったのだろうか
少なくともあの泣き方は出生した嬉し泣きではない
一方
見守る周囲の人は大泣きしている姿を見て笑顔で迎えてくれる
ならば
この人生を終え旅立つ時はせめて笑顔で最後を迎えよう
そして
今度は見守る周囲の人に大泣きしてもらえるような
そんな人生にしたい

もし人生の壁に何度もぶつかっているのなら
それは自分が前へ進もうとしている証
もし何度も転んでばかりいるのなら
それは自分が転んだ数だけ起き上がっている証
人生には限りがある
ならば限りある人生を
精一杯生きればいい
失敗したって成功したって
それは単なる人生の通過点
転んだら
また起き上がり
そして
立ちはだかるその壁に
またぶつかってやろうじゃないか

真夏の太陽が照りつける8月
17才だった二人はお互いが初めてだった
若い二人にとって愛とは何か
愛し合う意味とは何かなど考えたこともなかった
初めて経験する異性との交わり
お互いの体を貪ることが愛し合うことだと信じていた
まるで薄氷を踏むようなそんな恋愛は
学校を卒業しそれぞれの道を歩むことで
簡単に溶けて消えてしまった
失恋と言うには余りにもお粗末な終焉
それは私にとって
愛し合うことの本当の重さと別れの切なさを知る
人生の序章のほんの一行目でしかなかった

生きることに疲れ
何もかもが灰色に見えたあの頃
見上げた青空に
吸い込まれそうにかかる大きな橋
「二人の心の架け橋だね」
想い出の場所には
まるで自動再生のように
あなたの言葉がよみがえった
あれから
どんなに生きることに疲れても
生き抜くことは決してあきらめなかった
いま
この橋に向き合い
あのベンチに座っても
もうあの言葉は再生されない
私の目の前には
あの時の大きな橋が
あの時のまま静かに夜空に輝いていた

