食堂には、僕達二人だけだった。

『まだ、早いんですか?』

テーブルの上には、10人分くらいのお盆が並んでいた。

『そうなんだろうね。僕が、たいてい一番かも知れない』

タケシ先輩は、そう言いながらも箸を止めることはなかった。

『あっ、僕は少食だし、食べるのも早いから、気にしないで』

『はい、分かりました。僕も、食べるの早い方だから大丈夫です』

その時、僕は、タケシ先輩が集団というか、人前が苦手な人なんじゃないかと、漠然と感じていた。

食事は5分で終わった。
僕達は、『ごちそうさま』と、調理場の奥へ声をかけると、食堂を出た。
中から、『はいよ』という女性の声がした。

『僕は、財布を預けてから戻ります』

『玄関の右手の部屋に、ご主人がいるだろうからノックしてみて』

『はい、分かりました』

タケシ先輩は、部屋に戻っていった。

僕が部屋に戻ると、タケシ先輩はお風呂の準備をしていた。

『お風呂行ってくるね。場所は、食堂の奥だから』

夕食を食べ終わってから、まだ何分もたっていない。

『ああ……分かりました。僕は少し休んでから行きます』

『慌てなくてもいいよ。9時までに入ればいいんだから』

そう言うと、タケシ先輩は急いで部屋を出ていった。

一人残された僕は、、窓から景色を眺めた。
呆れるほど何も見えない。
山というより、林が見えるだけだ。
ただ、その林の上にわずかに見える空が、赤く染まっていた。

僕の住む町では、夕陽は海に沈む。
果てしなく続く日本海を、ドラマチックに真っ赤に染めていく。
僕は、あっちゃんのことを思い出した。

ところが、今窓から見える夕陽は、それとは全く無縁なありふれたものだった。

僕は、うとうとしてしまっていたらしい。

『風邪引くよ~』

お風呂から戻っていたタケシ先輩が声をかけた。

『本当に静かなんですね。寝ちゃったみたいです』

『僕は、もう慣れたけど。最初は驚くよね。お風呂どうぞ。今なら誰もいないよ』

『分かりました。食堂の奥でしたね』

『そう。手前が男性だから』

僕は、用意をして、お風呂へ入った。時間が早いせいか、誰もいなかった。
食堂の前を通った時、中から話し声が聞こえてきた。
何となく、僕はほっとした。






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