タケシ先輩は、元々それほど口数の多い人ではないらしかった。
僕にコーヒーを煎れてくれた後は、すぐに背中を向けると、熱心に本を読みはじめていた。

僕も、机には向かったものの、なかなか集中出来ずにいた。
それは、初めての場所だからという理由だけではなかった。
今回のもう1つの目的、それは、今までの夜型のリズムを、以前に戻すことにあったからだ。

時間は、5時を過ぎていた。今までなら既にベッドに入り、寝ている時間帯だ。
この一年間、とにかくこの生活を続けてきたのだ。
寝ちゃいけないと、頭の中では分かっていても、身体が思うようにはいかない。

それでも、何とか6時までは机の周りの整理と、これからのスケジュールを確認していると、タケシ先輩が立ち上がる気配があった。

『僕は、御飯に行くけど、アキラ君はどうする?』

『あっ、最初なので僕も一緒していいですか?』

『勿論だよ。行こう。早く食べて、今日は早く休んだ方がいいよ。慌てなくても、ここには時間があり余ってるから』

『時間があり余る?』

『ああ、すぐにわかるよ』

僕は財布を手に持ち、タケシ先輩の後に続いた。


『ここじゃ、お金の使い途がないよな』

僕が、ぽつりと呟くと、タケシ先輩が振り返ると、笑顔で頷いた。

『お店どころか、自動販売機もないから預けておいた方がいいよ』

僕も笑顔で頷いた。



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