『君は自由でいいよ』

もう一度、岡村は同じ言葉を繰り返した。

岡村は迷っている。そして、誰かに背中を押してもらいたがっている。僕は、直感的にそう思った。

『つまり、お前は医学部が嫌なのか?』

少しの間があった。

『嫌という訳じゃない』

岡村は苦しそうに言った。

『だったら、ノープロブレム。医学部入りたくても入れない奴はたくさんいる。お前にはその力がある。まずは医学部入って医者になれ。もう一度聞く。お前は医学部嫌じゃないんだよな』

『本当にそんな決め方でいいの?』

他人の意見を乞う岡村を、僕は初めて見た。

『当たり前だ。お前はお前の意思で医学部行くんだ。きっかけは何であれだ。途中で何かやりたいことができたら、そん時はそん時だ。トップで医学部入ってやれ』

岡村は突然、僕に背を向け、言った。


『君は、ビリでも京大に入るか』

僕は、笑いながら、後ろから岡村の背中を、ドンと叩いた。


『アキラ君の話って?』

岡村も笑顔に戻っていた。


『ああ、俺のはまた今度にするよ。夏休みの講習のことだから』

『予備校の夏期講習かい?僕は行かないよ』

『えっ、何で?』

『夏期講習ってさ、外部生が多くて落ち着かないし、レベル下がるんだよ。だから、僕は、学生村へ行く予定だよ』

『学生村って?』

『あっ、ここにパンフレットがあるから、一部君にもあげるよ』

『ありがとう。見てみるよ』

『今日はありがとうね。何か、すっきりしたよ』

『ああ、良かったな。俺でよけりゃあ、いつだって話聞くぜ。また来週にでも、今度は、俺にアドバイス頼むな』

『わかった』

僕は、パンフレットを鞄の中に入れた。





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