公園から駅まで、僕達は、しっかり手をつないで歩いた。
駅に着くと、帰りの列車『白鳥号』到着のわずか10分前になっていた。
その時、彼女は大きな声を上げた。
『お母さん』
そこには、あっちゃんのお母さんが待っていたのだ。
『遅かったじゃないの。あっ、私はこの子の母です。アキラさんですね?』
『はい、初めまして…』
僕は、あまりの突然のことに驚いて、言葉が出なかった。
『いつも、この子からアキラさんのことは聞いてるんですよ。今日も、ちょっとでいいから寄りなさいって言ったのに…』
『お母さん、もう時間がないよ~』
あっちゃんが、お母さんのカーディガンの袖を引っ張った。
確かに、二人は似てるなあと、僕はそんなことを思っていた。
『あっ、ごめんなさい。私はこれを持ってきただけだから。列車の中で食べて下さいね。じゃあ』
お母さんは、そう言い残すと、すぐに去っていった。
『もう、お母さんたら~』
あっちゃんは、そう言いながら、お母さんが持ってきてくれたものを、僕に手渡した。
『きっと、お弁当だと思います』
『ありがとう。うれしいよ』
『でも、時間なくなっちゃったよ。あたしも渡したいものあったのに』
『えっ、何?』
『はい、これです』
彼女は、笑顔を取り戻すと、バッグ中に入っていた、小さな紙包みを僕に渡した。
『開けていい?』
その時、列車到着を告げる放送が流れた。
『あっ、行かなきゃ』
『電車の中で開けてみて下さい』
『わかった。今日は本当にありがとう。もうここでいいよ。じゃあまたね』
『わかりました。こちらこそです。あたしも楽しかった~』
僕は、手を振りながら改札口を抜け、ホームへと走り出すと、同時に列車は到着した。
僕は、列車に乗ると、デッキから顔を出して、改札口を見た。
あっちゃんは、身をのり出すようにして、大きく手を振っていた。
僕も、心の中で、あっちゃんにも負けない位、大きく手を振った。
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