福井の街に再び戻ってきた時には、もう12時を過ぎてしまっていた。

『意外に時間かかっちゃいましたね』

『でも、楽しかった。行って良かったよ』

『あたしもです。なんか神聖な雰囲気で、それでいて癒された感じもしました』

『そうだね。すごい迫力でびっくりしたよ。あっ、電車もレトロで良かったし。じゃあ、ケーキ食べに行こうか』

『ううん、行かなくてもいいです。それとも、アキラさん食べたい?』

『いや、僕はどちらでも…どうしたの?どこか、行きたいとこ出来たの?』

『あたし、どこにも行きたくないんです。最初に行った公園に、食べ物と飲み物持って行きませんか?』


僕達は、結局、駅前でハンバーガーとポテト、それに飲み物を買って、城趾公園へと戻った。

そして、札幌の時と同じように、池を見渡せるベンチに腰かけ、二人できらきら光る水面を見つめた。


『あの時も、こうしてお昼食べたんですよね』

『うん、おばあちゃんのサンドイッチ美味しかった』

『えっ、あれはあたしが作ったんですよ…ちょっとだけど』

僕は、この幸せな時間が、あと少しで終わるだろうことを意識した。


『あっちゃん、高校はどう?』

『とっても楽しいよ。部活が特にね』

『軽音に入ったんだよね。楽器は何かやってるの?』

『今、キーボード練習中です。アキラさんはドラム叩けるんでしたよね。見てみたいなあ』

『最近やってないから…どうかなあ』

『あたし、ドラムの人好き』

『ドラムで、カッコいい先輩でもいるの?』

『ううん、そんな人いませんよ』


僕は、一つ深く息を吐くと、あっちゃんの顔を見た。

『あっちゃんは、誰か好きな人いるの?』


『前にも同じこと聞きました』


『そうだったね』



『いません、いるとしたらアキラさんかなって、あの時は言いました』

『うん、覚えてる』

『アキラさんはいるんですか?』


少し慌てながらも、僕は、はっきりと言った。


『ああ、いるよ。今、僕の目の前に』


僕は、視線をそらして、青い空を見上げた。

『あたしは……』


僕は、空を見上げたまま、次の言葉を待った。





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