さすがに、北陸の中心都市金沢では、人々がホームに列をなしていた。
僕の車両にも、多くの人が乗り込んできた。僕は、それらの人々と入れ替わるように、席を立ち、洗面所へと向かった、
今頃は、あっちゃんも起き出して、準備してくれているのだろうか。
僕は、心の底から込み上げてくる喜びを感じた。
座席に戻った僕は、本をバッグの中にしまい、窓の外を見つめた。
列車に乗ってから、もう8時間が経過しようとしていた。でも、時間の長さはまるで感じられない。
この時間が、あと暫く続いて欲しい。僕は、本気でそう思った。
会っている時間より、会うまでの時間に、これほどまでときめくとは…。
須磨から京へ戻るまでの時間をいとおしんだ光源氏の心の内が、ほんの少しだけ分かったような気がした。
『あと5分、8時5分定刻通りに福井です』
車内放送が流れた。
修学旅行の時は、待ちきれずデッキに移動したものだが、今日はゆったりと車窓の風景を眺め、この時間の幸せをかみしめた。
やがて、『日本海号』は、福井駅に到着し、数人の乗客と共に僕は、ホームに降り立った。
前回のあの2分間の時とは違って、反対側のホームだった。
橋を渡り、僕は改札口へと急いだ。自然に早足になってしまう。
ジャケットのポケットから、歩きながらチケットを取り出し、改札を抜けた。
『ア~キラさん』
あっちゃんが、売店の横から駆け寄ってきた。
『おはよう。来ちゃったよ。合格おめでとう』
『はい、ありがとう。あたしも高校生になれました~』
『今日は遅れなかったね。あの時は本当に帰ろうと思った』
『そうでした。あたし、30分も遅刻しちゃったんですよね。あれから随分時間が経ったような気がします』
『うん、あっちゃんは受験という難関があったからね』
『ううん、違うんです。アキラさんとは、もっとずうっと昔から知り合ってるような気がするんです』
『そうだね』
『ごめんなさい。それより今日もあまり時間がないんですよね。いろいろ考えてきたけど、どこへ行きましょうか』
『どこでもいいよ。僕はあっちゃんといられるなら』
『札幌では、時計台と中島公園でしたね』
『そう』
『じゃあ、まずこの近くに城趾公園があるから、そこ行って相談しましょうか』
『OK』
僕達は、駅を出ると、二人並んで公園へ向かった。
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