僕は、真っ先にホームに降り立った。

『どこにいる、いない、どこだ?』

『もしかして……』

そう思った時、ホームの柱の陰から、あっちゃんが跳ねるように、勢いよく飛び出してきた。


『ア~キラさん』

ベージュのコットンパンツに、紺色のジャケット。
たった三週間しかたっていないのに、随分大人びたスタイル。
麦わら帽子を被った、あの時の少女とはまるで別人。
髪の毛が長くなったせいもあるかも知れない。
僕は、茫然として見つめた。


『どうしたの?』

『えっ、ああ、あまりに雰囲気違うなあって…』

『あっ、お姉ちゃんに洋服借りて、ちょっとだけお化粧してきちゃいました~』

急に、顔を少し曇らせて続けた。


『やっぱり、ダメでしたか?』

『いや、とっても似合ってる。』

『ヤッター、お姉ちゃんと私って、体形が同じなの。あっ、お母さんもだけど。だから、私達三姉妹って良く言われるんです』


『ああ、、、そうなんだ』

『それより、アキラさん』

あっちゃんは、そう言うと、いたずらっぽく手を出した。


『ああ、おみやげだよね』

『そうで~す。そのために私来たんですよ~』

『はい、これ。受験頑張ってね』

『わぁーい、御守りだ。仁和寺だ~ありがとう~』


その時、発車のベルが鳴り始めた。

『あっ、乗らなきゃ』


僕は、列車に飛び乗った。

『待って、私、嘘言っちゃった』

『えっ、何』

『私、おみやげのために来たんじゃないよ。アキラさんに会いたかった……』

『そんなこと分かってるよ。僕だって』


僕は、思わず列車から飛び降りようとした。
その時、扉が音と共に閉まり始め、僕とあっちゃんを隔てた。


『来てくれてありがとう』

僕は、ガラス越しに声をかけた。
首を少し傾けながら、あっちゃんは、手を小さく振った。


僕は、あっちゃんの姿が見えなくなるまで、窓に顔を押し付けた。



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