修学旅行一日目。

京都に着いた僕達を乗せて、バスは奈良へと走り出した。
最初に訪れたのは法隆寺。
五重塔などを見学したあとには、東大寺へと移動し、奈良公園で昼食を兼ねた自由行動となった。

『アキラ君、一緒に食べようよ』

昨晩、列車の向かいのベッドになった高山が声をかけてきた。

『ああ、いいよ』

僕達二人は、鹿に餌やりをしている人達を横目で見ながら、レストランに入った。

『昨晩の話だけどさ、その目標って、すごく気になってんだよな』

『まあ簡単に言えば、京都の大学に入って野球することなんだ』

僕は、あっちゃんのことに触れる気は、全くなかった。

『そうか。アキラ君ならやれるかもな』

『アキラでいいよ』

『うん。わかった。でもさ、一つ気になるのは、今、身体全然動かしてないじゃん』

高山は、何故京都なのかを聞いてはこなかった。

『ああ、確かにそうだな』

『それでも大丈夫なのか?』

高山の言うことも、当然だと思った。

『トレーニングは、一人でも出来るけど、一人じゃキャッチボールもできないもんな』

『俺さあ、前から考えてることがあってさ、アキラ君さ、いやアキラも聞いてくれるか?』

僕は、黙って頷いた。

『俺は、中学ん時、一応はレギュラーだったけど、アキラと違って、この学校じゃ無理だと思って、野球部入らなかったんだ。それなりに強豪校だし…。でも、俺野球大好きなんだよ。それでさ、野球の愛好会みたいなもの出来ないかと思って』

『でも、グランドとかどうするんだ?それにメンバーだってあてはあるのか?』

『勿論、毎日やる訳じゃないよ。週に一回、土曜の午後だったら、市のグランド借りられんだよ。メンバーだって、他の学年にもやりたい奴はいるしさ』

僕は、同じ中学出身で一つ年下の後輩を思い出していた。
彼も僕と同じように、野球をやるためにこの学校に入ったものの、退部して、校内で顔を合わせるたびに、『野球やりたいっすよ~』と、言っていたのだ。

『週に一回、土曜の午後なら、俺も出来そうだ』

『ホント?アキラが入ってくれたら強くなるよ』

『なんだよ、試合もやるつもりか?』

『ああ、試合やりたいじゃないか』

『そうだな。試合やんないとつまんないな。また、帰ったら計画しよう。そろそろ時間だ』

僕達は、立ち上がり、バスへと急いだ。

次にどこへ行ったのか、僕には全く記憶がない。

『野球愛好会か。いい考えかもしれないな』


僕は、先ほど高山が言ったことばかりを考えていたのだ。



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