夕方のホームは人で溢れかえっていた。僕達は、人込みを避けるようにして、車両先頭方向へと向かった。そこが自由席車両になっていた。

『今日は楽しかった。本当にありがとう』

『私も本当に楽しかったです』

『こんなに人と話して、笑ったのは久しぶりだったよ』

『あのテニス部の彼女以来ですか~』

『えっ、あっちゃんは意外と意地悪なんだなあ』

『意外と意地悪じゃなくて、私、意地悪なんですよ~』

『そんな意地悪なら大歓迎だよ』

僕は、再び笑った。


その時、ホームに乗車を呼びかけるアナウンスが流れた。
僕は、思いきって尋ねた。

『ところで、あっちゃんには今、付き合ってる人とか、好きな人はいるの?』

『なんですか~いきなり』

『いや、言いたくなければいいんだよ』

僕は、慌てて言った。


『今はいません。いるとすれば、アキラさんと一緒です。多分…』


『いるとすれば、僕と一緒?』


『いるとすれば、私はアキラさんです。私達、奇跡の出会いですから』


僕は、何も言えなくなった。

そんな僕を見て、彼女はさらに独り言のように続けた。


『私達、次はいつ会えるのかな~』


『会えるさ、すぐに。僕は信じてる』


それだけ言うと、僕は手を差し出した。

『じゃあ、また。本当に楽しかった。ありがとう』

『うん、また』

僕が差し出した手を、握り返してきた。

僕は、車両に飛び乗った。
同時に列車は、静かに動き出した。

僕の思い出を夏の札幌に残して……



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