『時間なんて、あっという間なんです。だって、今日だって、一昨日だって、あっという間に過ぎちゃったから』
札幌駅までは、中島公園駅から地下鉄に乗った。
電車の中で、二人は無口だった。あれほど時間を惜しむように語り合ったのに。
札幌駅に着くと、僕は言った。
『電車まで少し時間があるから、どこかお店にでも入ろうか』
『はい』
僕達は、地下街にある小さなコーヒーショップに入った。僕はコーラ、彼女はオレンジジュースをオーダーすると、再び押し黙ってしまった。
重い空気を破るように、僕は言った。
『札幌にはいつまで?』
『あと三日くらいかな』
『アキラさんは?』
『明日は函館で過ごして、明後日には帰ろうと思ってる』
『えー、早いんですね』
『一日も早く帰って、受験勉強することにしたんだ』
僕は、その言葉を飲み込んだ。そして、その代わりに言った。
『住所と電話番号教えてもらってもいいですか?』
『はい。私にも教えて下さい』
『帰ったら手紙を書くけどいいかな』
『勿論です。私もたくさん書きます』
『でも、受験なのに大丈夫?』
『全然。かえって励みになります』
『良かった。それから、時々電話もしたい。声を聞きたいんだ。迷惑だったら、あっちゃんがかけてくれてもいいし』
『はい。お互い、声を聞きたくなったら、かけっこしましょう』
『ありがとう。じゃあ、そろそろ時間だから……』
『はい。ホームまで行っていいですか?』
『うん。時間大丈夫だったら』
『でも、北海道からの帰りの電車で又会ったら奇跡ですよね』
『いや、もう奇跡は起きてるよ』
『もう奇跡は起きてる……』
彼女は、僕が言った言葉をもう一度繰り返した。
『うん、僕達は出会って、今こうして一緒にいる。それが既に奇跡だよ』
『でもね、あのおばあちゃんも又一緒だったら?』
『あのおばあちゃん?』
『うん、私達に電車で話しかけてくれた、あのおばあちゃん』
『うーん、それは、奇跡だ。奇跡が二度起こった~』
『でしょう~』
彼女の得意気な顔を見て、僕は思わず声を出して笑った。
あのおばあちゃんは、今度はきっと飛行機で帰るに違いない、僕はそう思った。
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