大学の講義の終わるやいなや、Tさんの自宅へ向かいました。
仙台から新潟まで急行列車で移動し、新潟からは特急白鳥に乗りました。車中、彼の好きだった室生犀星の詩集ばかり読んでいました。特に、彼が私に読んでくれた『寂しき春』の一節、「したたり止まぬひのひかり うつうつまわる水ぐるま ……」は繰り返し口ずさみました。

着いたのは、もう暗くなり始めた頃でした。事前に伺うことは伝えてありましたので、彼のお父さんが待ち構えてくれてました。彼に聞いていたよりも、大きな病院でした。

もう、葬儀が終わって一月が経過していますので、家の中は何事もなかったかのように片付いていました。
お父さんも、とても穏やかな表情を浮かべ
私に労いの言葉をかけてくれました。奥様も傍に控えて、静かな笑顔を向けています。でも、どこか悲しげであることはすぐに感じられました。

早速、仏壇に案内してもらい、お花を供え、手を合わせました。そこに飾られてある写真は、間違いなくTさんのものでした。今まで、全く現実感がなかったのに、写真の中で笑っているTさんを見た瞬間、涙が溢れてきました。
なぜ、死ななければならなかったのか?

どれほどの時間がたったのでしょうか。
ご両親は、泣き笑いの表情で私をじっと見てくれていました。
人は悲しみが深すぎると、笑ってしまうということを、今は分かります。が、その時の私には分かりませんでした。
彼のお父さんが口を開きました。

『近くに息子の好きだった店がありますので、そこに行きましょう』

勿論、断る理由はありません。奥様に見送られながら、もう、真っ暗になった外へ出ました。



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