この季節になると、いつも思い出すことがあります。


あれは、私が大学1年生の時のちょうど今頃のこと。

激しく雨の降る夜でした。

一人暮らしを始めた私のアパートに速達が届きました。


「T死す。Tの父より。」

たったこれだけの内容でした。


Tとは、私のひとつ上の先輩で、その前年の夏に知り合いました。二人は受験生で、その頃の彼は、医学部志望の浪人生で、縁あって、その夏のほとんどすべてを彼と同じ部屋で過ごしたのでした。

朝起きると、彼の煎れたコーヒーを飲み、昼間は受験勉強、夜は花火をしたり、蛍を探したり、雨の時にはお互いが好きな詩や小説を朗読したり、時には相撲をとったりもしました。

とにかく気があったのです。年がひとつ違っていたのも良かったのかもしれません。私にとって尊敬できる先輩であり、兄のような人でした。


そして、夏が終わり、それぞれ自宅の戻りました。そして、その冬に受験し、私は仙台の大学へ、彼は第一志望は不合格でしたが、地元の医大へ見事合格し、医師目指して頑張っていたはずなのに、その彼がいったい何故‥


すぐに彼の父親に手紙を書きました。住所は知っていたものの電話番号は知らなかったのです。

「いったい何があったのですか?医学部に合格して喜んでいたのですが・・」

こんな内容だったと思いますが、これ以上何を書いていいのかわかりませんでした。

数日後、彼の父親から返事が届きました。


「息子のTは先日自殺しました。遺品を整理していたら日記が見つかりました。どのページを見ても、彼が苦悩し葛藤する言葉ばかりある中で、Sさん(私)と過ごした昨年の夏のところだけは、生き生きとした、それはもう本当に楽しそうなことばかりが書いてありました。

いったい彼は何をしていたのか、何を話していたのかを、Tのことを何も知らなかった、この情けない父親に教えていただけませんでしょうか。

失礼ながら、交通費を同封致しましたので、ご都合の良いときにいらしていただきますようお願いします。」


こんな内容だったと記憶しています。

私は、夏休みに入ると同時に彼の自宅のある北陸のある都市へと向かったのでした。そこで彼の父親が語った真相は・・・