ナタリーはみるみるうちに涙目になって、糖尿病の診断がついたその後彼女の猫になにがおこったのかを話してくれた。

 

衝撃の診断を受けてからいく日かがたち、家での療養環境もひととおり整ったころ、予約してあった再診のためにクリニックを訪れた。猫は、あいかわらずやせ細っている以外特に変わった様子もなく、血液検査や尿検査を受けてそのまま帰宅するはずだった。だが結局その後、一度たりとも彼女の猫は家に帰ることなくして、天国に逝ってしまったというのだ。

 

その日の受診で血糖値が予想以上に高く、糖尿病性のケトアシドーシスに傾いているので、そのまま入院させて点滴治療をしましょうと獣医師に云われ、ナタリーはいったん家に戻った。だがその日の夜になって、猫の容態が思わしくないので高度医療設備のある病院に緊急搬送しなければならないと連絡が入った。

 

病院に運ばれてからは、崖から転がり落ちるような速さで猫の病状は悪化し続け、ナタリーは数時間おきに獣医師やナースから聞きたくないニュースを伝えられることになった。猫は高血糖治療のためにインスリンの持続点滴を受けていたが、膵炎を併発しており脱水も酷く、病院に運ばれてから数時間後には腎機能がシャットダウンし、まもなくして肝機能も傾いてきた。痛みがあるのかどうかはよく判らず、しかし苦しそうに目を閉じて必死で戦っている猫にナタリーは声をかけたり体をさすったりして一夜を過ごした。が、懸命の治療と看病の介もなく、彼女は翌日あっというまに死んでしまった。

 

振り返れば、異変に気づいた時点から数えてもたった数週間しか経っておらず、このあまりの急な出来事をどう受け止めていいのかまだわからない、とナタリーは言った。一番最初にクリニックに連れて行った時はまだピンピンしていたのに、なぜこんな結果になってしまったのか。もっと早く気づいて治療をしていれば助かったのかもしれない、と涙をティッシュで拭きながら語る彼女に、かける言葉がみつからなかった。

 

亡がらを火葬して、灰は持ち帰った。

 

「どうするのが一番いいのかなと思うけど、たぶんずっとこのまま、自分のそばに置いとく。それでいいよね。」

 

私はうんうんと頷いた。

 

「でも彼女、ときどき家に戻ってきてるみたいなの。私も見たし母も見たって言ったわ。」

 

とナタリーは少しだけ顔をあげて言った。