介護職。相手は人間。傾聴を基本としたサービス業。
施設利用者である高齢者、サービスを提供する介護施設従業員、基本的には人間を
相手にする仕事。今までのマネジメント経験からやっていける自信はあった。
けどその自信は、出勤当日からグラついた。
従業員の平均年齢は60代。40代の若造が突然「施設長」ですなんて入ってきても、反感をかうだけ。出勤後の”挨拶”から返事が返ってくる事は無く、お客様である高齢者に対する言葉遣いを含めた”扱い”も、想像とかけ離れたものだった。
若さによる反骨精神。
それから毎日、出勤時には必ず”笑顔”で全員に挨拶をした。
3週間後には1人、1カ月後には2人と徐々に返事を返す従業員、介護士が増えて
きた。
早朝から、施設運営の管理。夕方、すべての高齢者をご自宅に送り届けてからは、
事務所でやっと事務仕事。なかなかハードだったけど、日ごとに従業員との溝が
埋まっていく気がして、それが日々のモチベーション維持の要だった。
高齢者の方々からは、「施設の雰囲気が明るくなった」と利用回数も増え、売上の
向上にも繋がった。
ある日の昼食時間、事務所で昼食をとりながら事務仕事をしていると、介護士達の
井戸端会議が聞こえてきた。
聞くに堪えない俺に対する悪口だった。
信じて疑わなかったものに裏切られた想い。社会人になって以来、始めての挫折。
腹をわって話し合えば、どんな相手でも分かり合える。そう信じてきた自分の中で、
何かが壊れた。
翌朝から、頭痛、眩暈、吐き気。
人生初めて味わう、鬱の症状だった。