手元の時計が22時を回ったところ、いつものように満員電車から解放し、近くにある松屋に入り込んだ。
夜が遅すぎて、とても自炊できない俺には、この店はすでに松屋の謳う文句と同じ、「食卓」となっている。
今日も牛丼のサイズをどれにしようかと券売機と睨みあって悩む時、後ろからハイヒールの足音が聞こえた。
珍しくこの時間帯に若い女性が来たかなと思い、軽く振り返ってみると、どうもおしゃれな格好をしてる女であるらしい。
スーツを着てるせいか、女性を待たせちゃ悪いと思い、ちゃちゃと注文を済ませ、券売機の横にある席に着いた。
ここで首を横に振ればこの珍しい客をさらに観察することは可能だが、至近距離である故、気まずくなりかねないと思い、携帯をいじり始めた。しかし、やはり少し気になっていた。
しばらくしたら「発券が終了しました」の音が聞こえた。すると同時に、珍客は一歩下がって、入り口の方に向かって体を回転し、帰るかなと思いきゃ、今度は素早くさらに180度回転して、カウンターの奥に向かって歩き始めた。見事に燕返しという技を見せてくれたとは言え、奇妙な動きはさすがに注目を浴びた。俺もそれに便乗し、女性の顔を初めて見た。
おしゃれ格好した40代後半のおばはんではないか。
別に何も期待していないけど、ギャップが大きすぎてちょっぴりがっかりした。
おばはんは一旦店の奥に入り、店員と話した後、今度は俺の左側の脇の席に着いた。
先の食券は返金したらしく、ひたすら座ってるだけであった。終電を逃した時間でもないし、どうやら人を待ってるらしい。
するとしばらく経つと、待つべく人が現れた。ランドセル背負ってるがきんちょ一人が入ってきた。
「マーマー!」と叫びながら、俺の隣の席に着いた。うるさいなと思うと、案の定、机を叩きながら話し始めた。しかし、机を叩く手はすぐさま母らしき先の女性に止められた。伝統的な日本人だなと感心し、しばらく話を聞いてやると、どうやらそのガキは今日のテストで高得点を収めたらしい。
一体どんな家庭の事情で、そのような話を深夜の松屋でしなければならないかと思うと、日本社会への不思議がまた一つ増えた俺であった。