父親の1周忌。
10年前の時間の速度を僕は嫌っていた。
朝起きてもその日は1週間後でもなく明日の今日だった。
もたつく時間の速さに冷めたフリして大人ぶっていた気がする。
大人になった僕は時間の速度にもたつくなよと言われる側になってしまった。
父親が亡くなって1年だって。
父ちゃんの声1年前には聞いてたんだっけ?本当に?
信じられないよ。
1年前なんてちょっと前のことに感じるのに、父のことはもっと遠く昔にも感じる。
あーあ、この先2年間あげるから2年前に戻してくれないかな。
まだまださ、言えてないことが沢山あんのよ。
兄は3人でゴルフ回りたかったって言っていた。
姉は口に出さないけど花嫁姿を見てもらいたかっただろう。
僕はなんだろう。
なにがしたかったんだろう。
梅雨の切れ間に差した晴天は父の命日を夏休みみたいな6月最後の土曜日にした。
この日はこの夏初めての真夏日になった。
1年前のこの日も梅雨空続きの世界に眩しい光が差し込む気持ちのいい夏休みみたいな日になったのだった。
人柄がそうさせる。
父に雨は似合わないもんな。
夜が好きなんだと思う。
買われたまま机の隅に積み上げられて、ピサの斜塔みたいになっている本を好きなだけ読める。
眠くなったり、ふと思い立ったら、伸びをしてから、おもむろに珈琲豆をさじ一杯ミルに入れてゴリゴリと豆を挽く。
豆が砕ける音を聞いて、手でその感触を感じながら、ハンドルを回す。大体無意識の内に考え事をして回す手が1回は止まる。
辺りは静まり返っている。街全体が眠っている中ぽつんと働いてるぜんまい工場みたいだ。
そうだ、こうやって1日が終わっていく、僕はブラックの珈琲が飲めない。
でもこの時だけはブラックで飲むのがなんだか好きだ。
風呂から上がって、恋人に声をかけた。
反応がないから顔を覗かせると、向こうの部屋のサイズの合わないベッドから飛び出た足がうっすらと見えた。
あと、もう少しで窓に届いてしまいそうな爪先にだけライトの灯りが当たる。
僕はその爪先から眠っている顔を想像しながら眠り支度をする。耳をすますと寝息が漏れてきた。
灯りを消してベッドに潜ってぼんやりと見つめると、目の前にある恋人の顔はうっすらと暗い塊でしかなくて、僕は手のひらで恋人の顔にそっと触れてみる。
ひとつひとつ確かめたいんだよ。毎日顔を見る君はいったい何者なんだろうか。どうして僕の恋人なのか。
鼻の形、アゴのライン、唇の厚さ、ほっぺたの柔らかさ。
目を閉じて触れると、暗闇で感覚が研ぎすまされた僕の指先は記憶装置となって恋人を確かめる。
そうしたらどうだろう、ビックリの連続!あれ、思ったよりアゴが張ってるな。わー、鼻の穴が小振りだなあ。
隅々まで知っていたはずなのに、どうしてこんなにびっくりするんだろう。
何年も見てきた顔なのに、触れてみると恋人は僕の知らない別人みたいだ。
目を開けてみると、やっぱり恋人は暗い塊にしか見えなくて、本当にそこにいるのが恋人なのかもわからなくなってくる。
でも、そこにあるのは聞き覚えのある寝息。この寝息に安心感を覚えるのは世界中探したって僕くらいなもんだ。
あと、どれくらい知れば君を全部知る日がくるんだろう。その日が来るのが楽しみなような、来てほしくないような。全部知ったらお互いにどんな顔するんだろう。
いつかのことのように今日の感覚を忘れてしまう日がこないように、日々を綴っていこう。
BGM:Jack Johnson "They Do,They Don't"
買われたまま机の隅に積み上げられて、ピサの斜塔みたいになっている本を好きなだけ読める。
眠くなったり、ふと思い立ったら、伸びをしてから、おもむろに珈琲豆をさじ一杯ミルに入れてゴリゴリと豆を挽く。
豆が砕ける音を聞いて、手でその感触を感じながら、ハンドルを回す。大体無意識の内に考え事をして回す手が1回は止まる。
辺りは静まり返っている。街全体が眠っている中ぽつんと働いてるぜんまい工場みたいだ。
そうだ、こうやって1日が終わっていく、僕はブラックの珈琲が飲めない。
でもこの時だけはブラックで飲むのがなんだか好きだ。
風呂から上がって、恋人に声をかけた。
反応がないから顔を覗かせると、向こうの部屋のサイズの合わないベッドから飛び出た足がうっすらと見えた。
あと、もう少しで窓に届いてしまいそうな爪先にだけライトの灯りが当たる。
僕はその爪先から眠っている顔を想像しながら眠り支度をする。耳をすますと寝息が漏れてきた。
灯りを消してベッドに潜ってぼんやりと見つめると、目の前にある恋人の顔はうっすらと暗い塊でしかなくて、僕は手のひらで恋人の顔にそっと触れてみる。
ひとつひとつ確かめたいんだよ。毎日顔を見る君はいったい何者なんだろうか。どうして僕の恋人なのか。
鼻の形、アゴのライン、唇の厚さ、ほっぺたの柔らかさ。
目を閉じて触れると、暗闇で感覚が研ぎすまされた僕の指先は記憶装置となって恋人を確かめる。
そうしたらどうだろう、ビックリの連続!あれ、思ったよりアゴが張ってるな。わー、鼻の穴が小振りだなあ。
隅々まで知っていたはずなのに、どうしてこんなにびっくりするんだろう。
何年も見てきた顔なのに、触れてみると恋人は僕の知らない別人みたいだ。
目を開けてみると、やっぱり恋人は暗い塊にしか見えなくて、本当にそこにいるのが恋人なのかもわからなくなってくる。
でも、そこにあるのは聞き覚えのある寝息。この寝息に安心感を覚えるのは世界中探したって僕くらいなもんだ。
あと、どれくらい知れば君を全部知る日がくるんだろう。その日が来るのが楽しみなような、来てほしくないような。全部知ったらお互いにどんな顔するんだろう。
いつかのことのように今日の感覚を忘れてしまう日がこないように、日々を綴っていこう。
BGM:Jack Johnson "They Do,They Don't"
