流行りもの好きのpopfreakは、ここんとこライブ配信にハマッています。無観客でのライブを自宅のパソコンで見るとか、特設会場からバンドのライブをネットを通じて鑑賞するとかいうアレです。

 

もちろん有料ですが、チケットもネットでゲットできて、超楽ちんです。 先日、友人のオススメでシャンソン歌手がジャズピアノトリオの演奏をライブハウスの会場から生配信する情報を聞き、早速申し込みました。やはり超楽ちんです。何しろ、会場に出向く手間も交通費も不要、また座席の位置も特等席です。不届きモノですが、ソファに寝そべってでもライブ演奏を楽しめますし、双方向ではないので歌い手にボクが寝そべっていることに気付かれる怖れもない(笑)。終わった時点でも自宅にいます。

 

 そのなかで歌われた一曲が「群衆」でした。ボクはただちにエディット・ピアフを想い、さすがに居住まいを正して聴き入りました。 

 

ピアフの代表曲の一つといわれる「群衆」(仏題:La foule)は、1953年にアルゼンチンで発表されてヒットした曲(原題:Que nadie sepa mi sufrir)です。作詞はアルゼンチン人のエンリケ・ビセオ、作曲はペルーのアンヘル・カブラル。なぜピアフが?と不思議に思って調べてみました。 

 

1957年に南北アメリカを巡演したエディット・ピアフがアルゼンチンで聴いたこの曲が気に入り、レコードをフランスに持ち帰ったのです。帰ってからピアフは、ミシェル・リヴゴーシュにフランス語の歌詞を依頼します。その作詞家は結局10回以上も書き直してようやく完成させました。 それを1958年2月にピアフがオランピア劇場でフランス語ヴァージョンとして創唱して、大いにヒットしたそうです(永田文夫著『シャンソン』より引用)。彼女は名曲を嗅ぎ分ける能力にも長けていたのですね。 

 

年度が分かりませんが、相当古いライヴフィルムがYouTubeに上がっていました。エディット・ピアフの壮絶な歌唱です。特に伴奏の最後がアップテンポに繰り返される箇所の彼女の動きは必見です。神かがっているようにも思えます。  

 

残念ながら、ピアフが持ち帰ったアルゼンチン盤の歌手名が分かりませんが、同じ言語圏スペインの歌姫で女優でもあったマリア・ドロレス・プラデーラが2人のギター奏者を伴って歌っています。素晴らしい歌唱が余りに格調高く、引き込まれます。

 

資料によればプラデーラがこの曲を録音したのは、ピアフより後のことなので、おそらくピアフの歌の出自を辿って、原語で自国語のスペイン語で歌ったのでしょう(ボクの推測ですが、その他スペインの歌手、ラファエルなどの録音もピアフ以降です)。 

 

余談ですが、ピアフの歌唱に余りに巻き舌表現の箇所が多いように思えるのは、元のスペイン語の語感によるものではないかな、とボクは勝手に想像しています(もともとピアフの歌には、過激な巻き舌歌唱が多いことも事実ですが、それにしても「群衆」はスゴイ!)。  

 

新しいところでは、エディット・ピアフのトリビュートコンサートでZazとノルウェン・ルロワがデュエットで「群衆」を歌っています。

 

Zazは来日コンサートにも行きましたので歌いっぷりは分かっていましたが、初めて聴くノルウェンさんの歌唱に引き込まれました。二人は同世代なんですね。 Zaz & Nelwenn Leroyのデュエットは、2013年にニューヨークで行われたピアフのトリビュート・コンサートでのライヴ映像です。  

 

さて次は、ボクが勝手にピアフの後継者と思い込んでいるパトリシア・カースの「群衆」です。あまりにもドラマティックで引き込まれますが、実はYouTubeにアップされているライヴ映像がどうやら正規ではなさそうで音質がお粗末。カースの歌を聴くに忍びずに、あえて静止画ものを選びました。ライヴ歌唱だけでも充分彼女の魅力を知ることができます。ぜひ聴いてみてください。  

 

われらが沢田研二さんの「群衆」も素晴らしいです。彼はボリス・ヴィアンの「脱走兵」(「拝啓、大統領閣下」という邦題もあります)をステージで取り上げたり、シャンソンレパートリーの親和性も見事です。沢田ヴァージョン「群衆」も動きを含め、感動的ですらあります。  

 

日本でのシャンソン普及に貢献されたお一人、岸洋子さんもライヴで歌っています。古い画像なので不鮮明ですが、歌唱は素晴らしい。  

 

次の歌い手は、名も知らぬ若き男性シンガーを取り上げました。 オーディション番組(Voice)で熱唱するAntoineという若者です。ピアフが生きていたら、世に送り出すためにこのイケメンの若者を応援したかもしれませんね。懸命に歌う姿勢に好感が持てます。  

 

やはり最後はマリオン・コティヤール主演の映画『エディット・ピアフ』の「群衆」の歌唱場面でしょう。2007年の映画で、コティヤールが主演女優賞を受賞したことでも知られますが、映像の作り方も見事です。2:15から流れる歌声は、ピアフ自身のレコード音源です。  

 

フランスも現在コロナ第3波で大変な事態だそうです。

 

“・・人々に突き飛ばされ、呆然となすすべもなく、人波の中に立ちつくす私。突然振り向いた時、彼は後ずさりしたが、群衆に押されて、その腕の中に私は抱かれている・・”

 

という甘い蜜のような「密」の状態(笑)を今のパリでは望むべくもありませんね。 

 

この「群衆」はDupinさんのリクエストでした。ありがとうございます。