バート・バカラックが、作曲家として活躍する前の時代。知人の音楽家を介してマレーネ・ディートリッヒの伴奏ピアニストになって欲しいと頼まれます。1901年生まれの彼女が56歳の時ですから、1957年のことで最初の対面シーンは強力です。バカラック自伝からの引用をお許し願いたい。
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ピアノの前でためしに合わせ始めると、「あなた曲を書くの?」と訊かれたので、「ええ、ソングライターになりたいと思っています」と答えた。(中略)わたしは「ウォーム・アンド・テンダー」を弾いた。マレーネにとっては初めて聞く曲だったが、弾き終えると、とても気に入ったと言ってくれた。 自分で歌うつもりはないが、フランク・シナトラに聞かせたいと言ってくれたので、持参していたデモを渡し、彼女は実際にフランクに届けてくれた。
彼がこの曲をボツにすると、マレーネはたいそう立腹し、フランクに「あなたは大きなミスを犯した。彼はきっと有名なソングライターになる」と告げた「今に見ていなさい!」と彼女は言い捨てた。「きっと吠え面をかくわ!」
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闘うディートリッヒの面目躍如。なにしろ映画『嘆きの天使』の成功でハリウッドに移った後で、ドイツに戻ることを希望したヒトラーにNO!を突きつけた闘士です。ヒトラーとナチスを嫌悪して行動したことは広く知られています。
さて、前置きが長くなりました。本日のお題は、彼女の主演デビュー作『嘆きの天使』(1930年、昭和5年)で彼女が歌った「また恋に落ちたのね(Fallin' In Love Again)」です。 作家は、F. HollanderとR. Connellyとなっていますが、英語詞を付けたのはSammy Lernerだそうです。これが多くのカヴァーを生んでいました。 まずは、ディートリッヒが映画『嘆きの天使』(ジョセフ・フォン・スタインバーグ監督が彼女を抜擢)から。
意外にも、あのオシャレな男前ブライアン・フェリーが歌っています。2000年、ある授賞式での歌唱ですが、この曲に続く2曲目にボブ・ディランのカヴァー「激しい雨が降る」を歌っています。面白いのは会場ではディラン自身が見ていて、いかにもつまんなさそうな顔しているし、緊張するだろうなブライアン。(こちらは本題ではありませんが、笑)
後年、1967年ごろのディートリッヒ・ショウのライヴ映像です。御年66歳ですね。動きは少しぎこちないですが、立姿、身のこなし、さすがのマレーネ!
なんとビートルズがデモでカヴァーしています。EMIでデビューした年の1962年の録音だそうです。デモに免じてお聴きください。結構雑です。
ボクの好きなドリス・デイが、アンドレ・プレヴィン(p)のバックを得て歌っているのは、デュエットアルバムから「また恋におちたのね(Fallin' In Love Again)」。ドリス・デイの歌には屈折という二文字が無いというと言い過ぎでしょうか。問題の息子さんには気苦労が多かったでしょうが。
サミー・デヴィスJrによる「また恋におちたのね(Fallin' In Love Again)」。最初はベースの伴奏だけをバックに、次第にビッグバンドでスウィンギーに。軽妙な歌唱が見事ですね。最後に「ンーん、サントリー」って聞こえてきそう。
最後は、マリアンヌ・フェイスフルが1997年モントルージャズフェスで歌っているライブ映像です。
今の時期、73歳のマリアンヌはコロナウィルス発症により入院したそうです。 早く元気になってほしいと、かつてアラン・ドロンと共演した映画『あの胸にもう一度』のように皮のオールインワンに身を包んでオートバイで助けに行きたい気分ですが、このシーンは明らかに濃厚接触になるので(笑)無理しないのが身のためですね。