突然♪what's it all about, Alfee・・とボクの脳内にリフレインするバカラックの代表曲の一つ「アルフィー」。

 

これは1966年のイギリス映画『アルフィー』のためにバート・バカラックが、朋友ハル・デヴィッド(作詞)と組んで作った主題歌でした。あれ?ソニー・ロリンズ(ts)もこの映画のスコアを書いて提供し、サントラ盤とは別にオリヴァー・ネルソンのアレンジによってLPを出していましたね。

 

ボクは買っていませんが、こちらはどうやらサントラ盤ではなく「Original Music From Score」という意味不明なクレジット(笑)が堂々と映画のスティール写真やロゴと共にジャケットに表記されています。

 

ボクはロリンズの野太いサックスが『サキソフォン・コロッサス』以来大好きで、この曲にもしびれていました。

さて本題はロリンズが演奏した曲「Alfee's Theme」ではなく、バカラック曲の「アルフィー(Alfee)」です。


バート・バカラックの弾き語りライヴの映像から。相棒の作詞家ハル・デヴィッドを讃えるコメントが素晴らしい。歌も味わいがあってしみじみしますね。

 


ボクにとってこの「アルフィー」は、なんといってもディオンヌ・ワーウィックの歌声が一番先に頭に浮かびます。テレビ出演時の歌唱です。ディオンヌとは「恋よ、さようなら」のコンビが絶妙でしたね。

 


次はスティーヴィー・ワンダーの歌う「アルフィー」。2012年にホワイトハウスで行われた「ガーシュウィン賞表彰式」でバートとハルが受賞した時の映像です。在任中、多くのミュージシャンを呼んでパーティなどを行われたオバマ夫妻の音楽好きは嬉しいですよね。ただ今の大統領は音楽には興味はなさそうですが、一方映画はお好きなようで。『風と共に去りぬ』とかね。

 


ボクの好きなヴァネッサ・ウィリアムズもレコーディングしています。この人の「Save The Best For Last」もインターネット普及前に中古レコード店を探し歩いた思い出があります。残念ながら静止画ですが、端正な歌唱です。そういえばこの方、シオノギのCMにも起用されていた時期がありましたね。セデスでしたっけ?

 


YouTubeには、ディオンヌのいとこにあたるホイットニー・ヒューストンの2012年のコンサート映像があるのですが、汗が異常で喉の調子も不調のようです。調べたらこの年にホイットニーは亡くなったのですね。ですからあえてホイットニーの動画はアップしないことにします(合掌)。


さて主題歌「アルフィー」にまつわる物語が、5年ほど前に出版されたバート・バカラック自伝(シンコーミュージック・エンタテイメント刊)に紹介されています。

 

映画『アルフィー』は、ロンドンのカサノバ、伊達男アルフィーの女性遍歴を描いたイギリス映画で、舞台が映画化されたもの。イギリスでの撮影を終えた後でパラマウント映画のトップからバカラックに主題歌の依頼があり、先にハル・デヴィッドが歌詞を書いた。その詞が素晴らしく苦労して作曲したバカラックはニューヨークでデモを作り、監督が歌わせたがっていたイギリスの女性人気シンガー、シラ・ブラックに送ったそうです。

 

ブライアン・エプスタイン(あの伝説のビートルズのマネージャー)がシラのマネージャーだったそうです。シラは「こんな曲は歌えない。絶対に歌いたくない」と反発したそうですが、彼女が出した3つの条件(バカラックがアレンジする、ロンドンに来て、しかもピアノも弾くという無理な注文)を出したところ、バカラックが了解したのでシラは「引けに引けなくなってしまった」そうです。

 

ロンドンのアビーロード・スタジオでバカラックを待ち構えていたのは、ジョージ・マーティン。この方もビートルズのプロデューサーとして1966年には既にリジェンド中のリジェンドでしたね。

 

録音では音域が広い難曲に苦労したのはシラでしたが、バカラックは皆が100%の力を引き出すことにこだわり、伝記によれば「テイク数は28か、29に」及んだとか。さすが完璧主義者なのですね。


シラ・ブラックが(イギリス)EMIスタジオのミキシングルームでの録音風景MVがYouTubeに上がっています。ミキシングルームには、ジョージ・マーティンの姿も写っています。

 

 

ところが映画音楽のの難しいところは、映画会社がイギリス公開版ではシラ・ブラックの歌唱で主題歌を歌わせたものの、映画監督の意向でアメリカの公開を当て込んで、この曲を当時アメリカで人気があったソニーとシェール(デュオ)のシェールに録音させてアメリカ版ではシェール版を使ったそうです。

 

バカラック自身が「このセッション(シェール)にはいっさい口出しできなことは分かっていた」という業界の権力構造を彷彿とさせる逸話ですね(しかも自伝には録音に立ち会って「私が苦痛だったのはシェールの歌い方ではなく、ソニーの<アルフィー>に対する仕打ちだった」とまで書いています。なお自伝が出た時にはソニーはすでに亡くなっています)。


1967年にシェールが歌う「アルフィー」のTV動画が見つかりました。まだまだ初々しいという感じですね。

 


この曲についてバート・バカラック自身が伝記に書いていることを最後に引用しておきましょう。

 

 

「ロスアンジェルスでマイルス・デヴィスと奥さんのシシリー・タイソンと夕食を共にしたとき、マイルスがかけてくれた言葉があった。(中略)マイルスがふと<アルフィー>は実にいい曲だと口にした。

 

すでに何曲ものヒットを書いていたにもかかわらず、わたしは依然として自分は世間をだましているのではないか、実際にはそんなに優秀でも独創的でもないのではないかという気持ちをぬぐえずにいた。

 

けれどもマイルス・デヴィスに<アルフィー>はいい曲だと言われたとき、そうした懸念が一気に晴れ、自力ではどうしても得られなかった自信を、ようやく得ることができたのである。」


「アルフィー」のエピローグに、ビル・エヴァンス・トリオ(エディ・ゴメス;b、マーティ・モレル;ds)の演奏です。