映画『男と女』のリマスター版再上映をきっかけに、頭と心はフレンチ・モード。フランシス・レイの華麗なメロディが、この2ヶ月ほど脳内自動再生していました。

 

そこでフランス歌曲を引きづったまま、エディット・ピアフの最後の大ヒット曲「水に流して」にたどり着きました。原題は「Non, Je Ne Regrette Rien」。直訳すると「いいえ、私は何も後悔しない」という意味だそうです(永田文夫著「世界の名曲とシャンソン」)。

 

「人が私にしたことは、すでに清算がすんでるわ。私は過去をのろわない」と、波瀾万丈だったピアフの生涯を象徴するかのような歌です。作ったのは、駆け出しの作曲家シャルル・デュモンで、軍隊行進曲のようだったこのメロディを、コラ・ヴォーケールの夫で作詞家のミッシェル・ヴォーケールに詞をつけてほしいと頼んだそうです。その歌詞ができたときに、ヴォーケールはこの曲がピアフにぴったりとの確信を得て、ピアフに連絡します。すでに体がボロボロになっていた彼女は、デュモンの弾き語った「水に流して」を聴いてすでに予定していたオランピア公演に予定していた曲を大幅に変更します。この曲を始めデュモン=ヴォーケールの曲を多く選んだそうです。

 

1960年12月に始まった4度目のオランピア公演は4月までロングランするほどの盛況で、ピアフの鬼気迫る絶唱は聴衆を圧倒したと前述の本にあります。ボクもパリのオランピアには行ったことがありますが、リアルタイムにここでピアフの歌を聴きたかったと思います。


ですからこの歌を歌う彼女は晩年ということになりますね。エディット・ピアフのライヴ映像です。これがどこで収録されたのかは分かりませんが、圧巻です。


若い世代にこの歌も引き継がれています。イザベル・ブーレイ、カナダの歌手の歌唱もステキです。

 


やはりミレイユ・マチューの歌唱には圧倒されます。これは2005年9月モスクワでの野外ライヴで、音楽がロシアとフランスの友好を取り持っているようです。
なおメドレーになっていて「水に流して~バラ色の人生(2分30秒あたりから)」いずれも素晴らしいです。最後に「カチューシャ」が歌われるのもステキです。


60年代にフランスのエルヴィスとして人気抜群だったロックンローラー、ジョニー・アリディも2000年のオランピア劇場で「水に流して」を歌っています。この時57歳のアリディ、年輪を感じさせる風貌と歌唱ですね。


さて、ピアフが気に入ったことで一躍人気作曲家となったシャルル・デュモン自身が歌う「水に流して」。1分過ぎあたりで歌になります。


最後は、ドラマティックな歌唱でピアフの後継者と一時言われていたパトリシア・カースが2012年にドイツのテレビ番組出演時に「水に流して」を歌っています。豪華なオケをバックにスゴイです。


かつてフランスのスノッブ、ボリス・ヴィアン(作家、トランペッター、プロデューサー)はエディット・ピアフを評して「ピアフは電話帳を歌っても聴く人を泣かせることができる」といったとか。

このコメントの真偽のほどは定かではありませんが、「パトリシア・カースの歌は、別れた恋人たちを再び熱く燃え上がらせる」という人がいても納得できるパワーありですね。1966年生まれですからまだ50歳。

 

まだまだ人々の心の平安に歌で貢献してもらいたいものです。