ショパン・シリーズ第3弾は、映画『愛情物語』(原題:The Eddy Duchine Story)。世間の評価はともあれ、極私的には忘れがたい名作です。

なんといっても、カーメン・キャバレロのサントラ・レコードが少年時代のボクの琴線を大きく掻き鳴らしてくれました。

原曲は、ショパンの「ノクターン第2番・変ホ長調」(作品9の2)です。



とくに『愛情物語』には忘れがたい想い出がいくつもあります。

洋画好きだった父は、子供の頃にボクを映画館によく連れてくれました。きっと自分が観たくて息子をダシに連れ出したのだろうと思いますが、息子は息子で映画の後で行く三条河原町や四条木屋町の不二家レストランが楽しみでもありました。この映画も、そんな父との想い出のひとつです。

もうひとつの想い出。

当時小学生だったボクは、この映画を観た数日後、いつもは音楽の授業は教室で行われるのに、この日に限って先生が講堂にみんなを集め、講堂にあるグランド・ピアノで自らショパンの原曲「ノクターン第2番」を弾いてくれたことに驚きます。

その突然のノクターンを聴いて、ボクは“そうか、先生も『愛情物語』を観て、感動してボクらに聴かせたくなったんだな”と嬉しくなったことを今も覚えています。しかもグランド・ピアノで演奏したかったんでしょう。主人公を演じたタイロン・パワーのように・・・。

その時、大人しい生徒だったボクが先生に“先生、ボクも観ましたよ『愛情物語』。タイロン・パワーもキム・ノヴァクも素敵でしたね!”というほどの勇気があったかどうかは記憶にありませんが、その日から特に先生が好きになったことは確かです。そんな先生にまつわる想い出がふたつめ。


往年の名ピアニスト、アルトゥール・ルービンスタインの演奏による原曲です。

Chopin Norturne Op.9-2 Arthur Rubinstein 1965



そもそもエディ・デューティンなるピアニストでバンドリーダーを日本で知っていた人は超少数派だったと思います。

美男子でスウィートな演奏によってアメリカでは30年代から人気ものだったそうです。おそらく映画会社の人も当時多かった音楽家の自伝映画にならって『ベニー・グッドマン物語』『グレン・ミラー物語』というようなタイトルにせず、『愛情物語』と名付けたのだろうと思いますが、この邦題も映画のヒットに一役買ったのだと思います。

映画の中で好きなシーンがいくつかあります。

タイロン・パワーがピアノが弾けたわけではない(実演奏はカーメン・キャバレロ)のに、このアップテンポな曲では腕と指の動きがとてもリアルで、子供心にも俳優タイロン・パワーのプロ意識を痛感したことも覚えています。

曲は「Brazil」です。





さらに従軍したときのシーンも忘れられません。こわれたアップライト・ピアノを見つけて弾き始めたところ、現地の少年が近寄ってきて一緒に連弾するシーンです。音楽が人々の心をつなぐことに共感します。

子供とピアノ連弾




ラスト・シーンは、息子との連弾によるテーマ「愛情物語」です。暗示的に主人公がいなくなりますが、まだご覧になっていないかたのために理由は述べないで
おきましょう。






親がススメル映画が、子供の人生に大きな影響を与えるという実例でしょうか。

若いころに聴いた音楽や観た映画は、一生ついてまわるような気がします。