私はタイのチェンマイに住んでいて、タイの新型コロナウイルス(Covid-19)について、普通の日本人は知らないタイの事も少しは知っていると思うので、その状況を書いてみます。
なおここでは基本的に、数値が誤魔化しにくい死者数に注目してみます。
(私より遥かにタイ語が堪能な方からいろいろ教えてもらい、9月17日に内容の一部を修正しました)
タイと日本での全体的な死者数の推移は以下のようになっています。
(人口10万人あたりの死者数。7日間平均。出典はココ)
このグラフを見てもらえば分かるように、タイのコロナ死者は、初期はずっと「さざ波」だったのに、2021年4月中旬以降に急に増えています。
さざ波期間はアルファ〜ガンマ株、2021年4月中旬以降はデルタ株ですね。
この2つの違いがものすごく大きいので、2021年4月中旬を区切りにしてタイの状況を書いてみます。
2021年4月中旬以前(アルファ〜ガンマ株)
タイでの新型コロナウイルスの感染は、他国と同様 2020年3月から始まりました。
グラフでは小さすぎて見えないのですが、2020年3月〜6月が第1波だと言えます。
このとき、タイでは57人が死亡しましたが、死亡した年齢分布は、日本とだいぶ違います。(出典はココ)
一番死んでいたのは50代で、次いで40代、60代と続きます。20代や30代の死亡者がいることも驚きです。日本で一番死亡率が高い80代以上は、タイでは4人しか死んでいません。
この第1波発生で、タイ政府は2020年3月23日に非常事態宣言を出しています。
一時は、食堂がテイクアウトだけになったり酒が買えなくなったりといったこともありました。
が、2020年6月以降は帰国者以外での感染者・死亡者がほとんど出ずに、ほぼゼロコロナの状態が13ヶ月以上も続きます。
(ちなみに、非常事態宣言は現在まで途切れること無く延長されています)。
第1波が起こった直後、バンコクから地方に逃げるために多くの人がバスターミナルに詰めかけました(日本でもニュースになりましたね)。
が、その後、地方には感染が広がらず、バンコクでも収束したのです。
アルファ株によるタイへの影響が、なぜこんなに少ない被害だったのかの理由は、不明です。
日本や台湾で感染者が少なかったのは周りが海で囲まれているからだという人もいますが、タイは陸地(+河川)で他国と多くの国境を接しています。
もちろん国境は閉鎖されて人流が監視されましたが、河川の対岸に外国が見える近さは日本の比ではありません。それにタイの国境付近には国籍を持っていない人も多くいて、当然ながらBCGなどのワクチン接種もしていません。
そんな環境で、13ヶ月以上もゼロコロナを保っていたのです。
2021年4月中旬以後(デルタ株)
2021年4月中旬。ミャンマーに遊びに行っていたタイ人、およびミャンマー労働者がタイにコロナを持ち込みました。やはり国境監視は徹底されていなかったことが明らかになりました。
ただ、最初の感染爆発は収束の雰囲気を見せていたのです。同時期に日本では第4波が収束し始めていて、タイも後追いするだろうと思っていました。
それが、6月中旬くらいから完全に様相が変わります。
何が違うかというと、この頃からデルタ株が主流になったのです。2020年3月〜6月で57人しか死ななかったのに、一時期は1日で300人とか死に、同時期のアメリカやイギリスの死者数よりも上回りました。
このデルタ株による急激なパンデミックだけで、累計死者数は日本を軽く越い抜きました(いずれも人口当たりでの比較)。
タイはこのパンデミックに対応するために大型施設を臨時病棟にしましたが追いつかず、自宅や路上で死ぬなどのトリアージが毎日のように起きていました。その数は日本の比ではありません。
基礎疾患のある人や肥満の人(タイには意外と多い)が主に犠牲になりましたが、報道を見る限り、低所得者への対応が後回しにされた感はあります。
日本でもデルタ株で多くの感染者を出したのに死者はずっと低く抑えられたのは、おそらくワクチンの効果でしょう。
タイでは6月くらいから本格的にワクチン接種されたのですが、推移だけ見ると、まるでワクチン接種した人が感染を広げていたようにも見えます。タイ以外の複数の国でも同様な傾向が見られ、ワクチン接種者がスプレッダーになっている可能性が指摘されました。
しかし、感染元の経路を調べていってもワクチン接種者には行き着かないようです。タイ以外の先進国でも同様なので、調査が甘いということではなく、デルタ株の猛威と時期が重なった擬似相関ということなのでしょう。
タイでのワクチン接種も60歳以上高齢者と基礎疾患のある人を優先で始まったはずなのですが、ネット申請が高齢者には使いにくいなどの問題があり、実際の接種は、医療関係者、公務員、教育関係者、VIPが優先されたようです。
医療関係者はともかく、公務員と教育関係者が入っているのは多くの人に会うからなんでしょうかね?
第1波の年齢別死亡者に高齢者の死亡者数が少なかったことも判断に影響しているかもです。
タイは計画通りに物事を進めるのが苦手で権力者になびきがちなので、こういうのはグダグダになりますね。
日本もワクチン接種で混乱した部分はありますが7割方は計画通りに実施され、また民主主義国家としてワクチンを仕入れやすかったのがタイとの違いでしょうか。
そんな感じで高齢者へのワクチン接種が遅れ、当然ながら高齢者の死亡率が上がってきました。
現時点での年齢別累計死者数の割合はこんな感じになっています。
(タイでの数値が70代以上合算しか分からなかったので、日本の70代と80代以上を合算しています)
下の絵は、タイの伝染病管理局(ddc.moph.go.th)が毎日発信している情報です。
これは2021年9月12日の日別死亡報告の例で、右側に大きく赤字で「รวม(合計) 93%」と書いてある部分の左側には、
・60歳以上、132件(73%)
・60歳未満で慢性的な病気を持っている人、36件(20%)
と書いてあります。
つまり、「コロナで死んでいるのはほとんどが高齢者で、次いで慢性的な病気を持っている人だ」という注意喚起をしているのです(タイ人の平均寿命は75.5歳なので、60歳以上は高齢者の感覚です)(図のちょっと上の方に、死者は5ヶ月から108歳までで、中央値が70歳だとも書いてあります)。
60歳未満で慢性的な病気を持っていない人は、10件(6%)しか死んでいません。
ワクチン接種開始から4ヶ月も経過しているのに高齢者が多く死んでいるのですね。
60歳未満より下に書いてある報告は、ちょっと異様です。
絵を見て想像できるかと思いますが、ตั้งครรภ์ は妊婦、เด็ก 5 เดือน は5ヶ月の新生児です(それぞれ1件の死亡)。
タイでは妊婦のコロナ死亡がほぼ毎日、新生児も数日おきに1件とか発生しているのです。帝王切開したが母子共に死亡などというニュースも結構ありました。
単にコロナ陽性になった妊婦が死んだのかとも思ったのですがそうではなく、急に肺炎が悪化する症状などは確かにコロナと思われます。
件数は少ないですが、日本では考えられない例ですね。こういう人の抗体を調べれば何か分かりそうなものです。
日本と違ってまだ高齢者にワクチン接種が行き渡っていないタイで、リスクに応じた接種がおこなわれていないのは大変に不幸な状況です。
(余談ですが、日本の死者のほとんどが80代以上というのも世界的に見ればちょっと異様で、タイの方がアメリカとかの分布に近いです)
このままタイは世界での死者数ランキングを登る一方かと思われていましたが、8月下旬にピークをうち、そこから下降トレンドに入りました。
とりあえずの山場はしのいだ感じで、いくつかの制限は緩和に動いています(バンコクは緩和ムードを喜んでます)。
そして、これは日本も同じなのですが、なぜ感染者が減り始めたのかは不明です。
タイでの死者数の減り方はすごく急激なので、ワクチンの効果で無いことは確かだと思います。
世界的に、何も対処していなくても感染が減り、しばらくしたらまた増えるという波を繰り返しているようで、タイや日本も世界の波に(それなりに)連動しているように見えます。
ちなみに、世界的に見ればタイの自粛内容は緩く、日本よりちょいキツ目ぐらいだったかなと思います。
タイは鉄道が発達しておらず庶民の移動はほとんどが車なので、県境(県をまたぐ道はそんなに多くない)を見張っていれば他県からの流入は比較的分かります。物流以外の車はだいぶ止められたようです。飛行機の国内線も止まりました。
あと、学校の授業は中止されてます。
タイでの新型コロナウイルスの不思議
新型コロナウイルスのタイへの影響は、世界的に見れば共通している部分もある一方で、なんか妙に違う部分も多く、本当に同じウイルスなのかと疑うほどです。
ものすごく大ざっぱに表現すると、タイでは、アルファ株は異様に小さい被害しか出さず、デルタ株は異様に大きな被害を出していますね。なんでこんなに両極端なのでしょう?
日本ではファイザー製ワクチンを多く使ったのにタイではシノバックを使った差もあるかとは思いますが、タイは接種率がまだ低い(ワクチン接種完了率は18%、1回接種は39%)のに高齢者を優先していない事情の方が大きいでしょう。
なおタイでは、ファイザーも少しですが入り始めているので、もしかしたら今後状況が変わるかもしれません。これには多くのタイ人が期待しています。
タイではデルタ株の前後で死者数に大きな変化がありましたが、デルタ株の前後でタイの人流が大きく変化したようには見えません(最初からずっと非常事態宣言は継続されていましたから)。
実は、タイだけでなくベトナムもずっとさざ波だったのに2021年7月下旬にパンデミックが起こり、罰金付きの外出禁止処置をおこなったのにタイと同水準の死者数を出しています。
だから、死者数の差は基本的には株の違いでの差だと考えられます。
なんらかの免疫がアルファ株からタイやベトナムを守り、その免疫がデルタ株には効かなかったと考えるのが妥当でしょう。
その「何か」の免疫の違いが、人流抑制より100倍以上重要なファクターなのだと想像できます。
その「何か」の方向性さえ分かれば、デルタ株にも対処できるかもしれないと期待するのですが、残念ながら専門家にも分からないようです。
世界的に感染者が上下の波を繰り返しているのは、ウイルス干渉が主原因の可能性もありますね。
免疫やウイルスに対する理解がまだまだ研究不足なので、政府は非常事態宣言などの人流抑制しかやれる事が無く、経済に大ダメージを与える割にはほとんど効果を出せないでいます。
感染症の専門家は当たらない予報を出すよりも、この「何か」が何なのかを調べて欲しいですね。本当に。
タイやベトナムなどは極端な反応をしたので調査をしやすいかと思うのですが、どうでしょう?





