今月はじめに 夢が萎んじゃうって事を書いたのだけど また萎んだ夢が増えてしまった


昔から高村光太郎智恵子抄が好きだった

インターネット黎明期に あるホームページで出会った方(不登校の母親が集まっていたホームページで 今流に言えばママ友)が会津若松の出身で 彼女の案内で智恵子や光太郎ゆかりの地を旅したことがあった


そしてそのほかに福島民友という新聞に短期連載された素顔の智恵子の連載記事を切り抜いて束ねて送ってくださったのだった





今 歴史や古建築を再び思い出したくてさまざまなノートや資料を整理しているのだが なんと!その智恵子の連載記事の切り抜きが出て来た

そして思わず読み耽っていたら そうそうこの記事にある温泉宿にいつか泊まってみたかったんだ と思い出して M氏を誘って(運転手さん?😆)その温泉宿に一泊しに行こうかと思い立った






思い立つと動き出さないと気持ちが落ち着かないせっかちな私は 早速その温泉をネットで探してみたら 2013年に火事で全焼 その後日帰り温泉として規模を縮小して経営していたようだが残念なことに2019年にもう閉館に追い込まれていることがわかった

火事のことなど全く知らなかった、、無念以外のなにものでもない

行けなくなったことも無念だけど それ以上に高村光太郎文学を語る上でとても大切なこの場所がなくなったことがとても大きな損失に思えた


ご存知のように高村光太郎と結婚した智恵子は 結婚後 次第に精神と体を病んでいきます

理由は経済的バックボーンの実家の離散、絵画制作の行き詰まり、芸術家であり主婦であることの葛藤(まだ男尊女子の色濃い時代でした)などがあげられます

そして 1人で福島に帰えり療養生活に入るのですが やっと久しぶりに福島に来た光太郎と東北の温泉を巡りをしました

智恵子が発病してから九年間途絶えていた詩の筆が この時期からまた始まるのです

この旅行中にあの有名な「樹下の二人」が生まれたのでした



記事を読んだ時にとても心に染み入って 行こうと思えば行けたのに?と20年近く前の私に語りかけてみたけれど、、無理だったよね、、現役バリバリ主婦の頃で 母や義父のめんどうをみたり 子供達もまだ手放しではいられない年齢だったし 旅行といえば家族旅行しか思いつかなかったのだと思う


はぁ、、、消えちゃった夢一つ

寂しくもあり悲しくもあり

でも ちょっとすっきりもあり


そう もうこれからは 

やりたいことは先送りしない!

できる範囲で実行していく!


多分切実に確実に 時間は減っている

元気に1人で動ける時間は

これからどんどん減っていくだろう


いつか後悔しないように

いろんな周りのものとのバランスをとりつつ

今やりたくて 今できる事をやっていきたい


そうやって暮らしていきたい


✴︎✴︎✴︎ 加筆✴︎✴︎✴︎


改めて樹下のふたりを読み返してみた

昔感じなかった思いが湧いて

改めて光太郎の苦悩を知る

智恵子の無念を知る


でも きっと昔感じたものを

今は感じ取れないのだろう


それでいいのだと思う




樹下の二人

――みちのくの安達が原の二本松松の根かたに人立てる見ゆ――

あれが阿多多羅山あたたらやま
あの光るのが阿武隈川。

かうやつて言葉すくなに坐つてゐると、
うつとりねむるやうな頭の中に、
ただ遠い世の松風ばかりが薄みどりに吹き渡ります。
この大きな冬のはじめの野山の中に、
あなたと二人静かに燃えて手を組んでゐるよろこびを、
下を見てゐるあの白い雲にかくすのは止しませう。

あなたは不思議な仙丹せんたんを魂の壺にくゆらせて、
ああ、何といふ幽妙な愛の海ぞこに人を誘ふことか、
ふたり一緒に歩いた十年の季節の展望は、
ただあなたの中に女人の無限を見せるばかり。
無限の境に烟るものこそ、
こんなにも情意に悩む私を清めてくれ、
こんなにも苦渋を身に負ふ私に爽かな若さの泉を注いでくれる、
むしろ魔もののやうにとらへがたい
妙に変幻するものですね。

あれが阿多多羅山、
あの光るのが阿武隈川。

ここはあなたの生れたふるさと、
あの小さな白壁の点点があなたのうちの酒庫さかぐら
それでは足をのびのびと投げ出して、

このがらんと晴れ渡つた北国きたぐにの木の香に満ちた空気を吸はう。
あなたそのもののやうなこのひいやりと快い、
すんなりと弾力ある雰囲気に肌を洗はう。
私は又あした遠く去る、
あの無頼の都、混沌たる愛憎の渦の中へ、
私の恐れる、しかも執着深いあの人間喜劇のただ中へ。
ここはあなたの生れたふるさと、
この不思議な別箇の肉身を生んだ天地。

まだ松風が吹いてゐます、
もう一度この冬のはじめの物寂しいパノラマの地理を教へて下さい。

あれが阿多多羅山、
あの光るのが阿武隈川。

大正一二・三


智恵子の切り絵