4,中国大陸へ上陸

 

8月3日朝6時半。いつもより早く目覚める。
すばやく身支度をしてデッキに出てみる。
遠くの方に中国大陸がかすんで見える。
(やった、中国だ。)
飛行機なら3時間でひとっ飛び。
でも船でこうして来てみると中国到着の感慨もひとしお。

海港は、長江の河口を入り、
さらに支流に当たる黄浦江という大河をさかのぼった右岸にある。
朝7時は中国のラッシュアワー。
船から両岸をながめると
車と自転車の波が手にとるように見える。
そして第二次大戦以前の租界時代に建てられた
ヨーロッパ建築の高層ホテルや中国銀行などの建造物群。
まさに一千万都市、上海。

午前8時、接岸。
それと同時にリュックを背負って
一目散に駆け出す。
入国手続きを済ませ、
上海の街に一歩足を踏み出したその瞬間、
ものすごい蒸し暑さと
共に鼻をつく悪臭と
何とも言えぬ騒々しさに一瞬たじろいだ。
(何じゃ、この臭いは)
どうやら5年間のブランクによって
中国のこの匂いと喧騒をすっかり忘れてしまっていたようだ。

僕はしっかり前を見すえ、黙々と歩き出す。
いかにも目的地があるように振舞って歩かないと、
妙な客引きの連中につかまってしまう。

それでも何かと言い寄って来る胡散(うさん)臭い中国人青年。
人目をはばかるように
小声で「コウカン(交換)、コウカン(交換)」とか
「チェンジマネー?」などとささやく。
彼らは外人専用の貨幣、兌換券を手に入れるため、
外国人と見れば彼らの持つ
中国人専用の貨幣、人民券と交換しないかと言い寄って来る。
交換レートは人民券120元に対し、兌換券100元。
いわゆるブラックマーケット。

彼らの上には元締めがいてごくわずかの手数料を彼らに渡す。
元締めは集まった兌換券で人民券では買うことの
できない外国製品を大量に手に入れるという仕組み。
そんなことをして中国政府に見つかれば、
彼はもちろんこちらも何らかの「お叱り」を受けることになる。
またホテルや飛行機、列車など、
正式には我々外国人は兌換券で支払いをしなければならないことになっている。
人民券など、国外へ出れば全く通用しない紙くず同然の代物。
気軽に相手にならない方がいいんだけど、
でも本当はこの「交換」、うまく使うのが
多くのバックパッカーの常識。
場末のラーメン屋で兌換券出したら向こうもさぞかし驚くだろう。
そんなお札見たことないって。
人民には人民券。これでいいのである。

ちなみに現在、
このシステムは廃止され人民の持ってるお札もすべて
兌換券になってしまった。
何だか懐かしいような残念なようなそんな気分である。