7,成都へ
その日の夕方、僕を乗せた飛行機は中華民航機内食
成都空港に着陸した。
何とかタクシーで成都市街に入り、交通飯店というホテルを
2軒目のトライで確保した。一泊16元(約500円)。
翌朝、昆明行きのチケットを捜したがどうしても飛行機だと
三日は待たなければ空席がない。
あとは汽車しかない。
そこでしばらく考え込んでしまった。
汽車の旅は中国人民とふれあいが持てる最高のチャンスである
ことはまちがいない。しかし汽車の旅がいかに精神的肉体的につらい
ものかを知っていた僕は躊躇せざるを得なかった。
万が一切符がとれたとして硬臥(二等寝台)車の
切符を手に入れることは難しい。成都にて
そうなれば硬座(二等座席)車しかない。
ちなみに一等車(軟座、軟臥車)はローカル線を
走る列車にはつながれていない。
硬座とはその名の通り、木でできた硬い直角の座席の列車である。
硬座の恐怖。
5年前の悪夢のような思い出が頭をよぎる。
5年前。鄭州(チョンチョウ)から西安(シーアン)までの
20数時間を硬座車で向かった時のこと。
蒸気機関車特有のばい煙と人いきれ、
騒音に加えて一晩中眠れない座り心地の悪さ
のおかげですっかり喉をやられてしまい、
丸一日風邪でダウンすることになったのである。
しかし飛行機の切符がなければどうしようもない。
何としても昆明には行きたい。
やむなく汽車の切符を買いに駅へと走った。
ものすごい人混みをかき分けて運よく手にいれた
その切符は次の日の早朝の列車。
しかし硬座で所要時間は27時間。
「ええい、かまわん。何とかなるだろう」
とにかく一刻も早く昆明へという気持ちがあった。
そればかりかこの時、切符を中国人民料金で
買えたということで多少気を良くしていたくらいである。
本来、外国人は中国人の約1.7倍の料金を支払わなくてはならない。
しかしこの時は中国人料金の41元(約1200円)しか請求されなかった。
「タオクンミン、イイガレン、ミンティエンダピャオ(昆明まで一人、明日の切符)」
という下手くそな中国語が、なぜか切符売り場の服務員には自然に聞こえたのか、
あるいは例によって彼女個人の事情がそうさせたのかは今もって明らかではない。
街へ出てみる。成都は暑い。
四川盆地のまん中に位置するため、この蒸し暑さは例えようもない。
35度は軽く越えているだろう。
市民は皆、老いも若きもアイスキャンデーをほおばっている。
得意げに食べているようで見ていると実においしそうである。
しかし道端で無数に見るキャンデー売りのおばさんからは
結局一本も買うことはなかった。
さすがに夏場に腹をこわすことの怖さが先に立ったのである。
アイスキャンデーを食べないとすれば
のどの渇きをいやすものはジュースしかない。
そこで大きな氷の上に何本もビンごとジュースを
ならべて売っているおばさんに近づく。
しかし、それらはジュースというより色のついた砂糖水と言った代物で、
さすがにチャレンジできなかった。
【アイスキャンディー屋のおばちゃん。看板がアイスの形を表してる。氷の上にジュースが並べてある。】
中国でとった水分はほとんどが白湯かお茶だった。
日本から水筒代わりに持って行ったインスタントコーヒーの空き瓶に、
その日の朝、必ずホテルか列車内で熱湯を詰めて成都のレストランの食事1
肩掛けカバンの中に持っていた。
熱湯は簡単に手に入るし、
お茶の葉っぱに関しては中国ではどんな田舎に行っても事欠くことはない。
町でウーロン(烏龍)茶・鉄観音の葉を約200グラム3元2角(約100円)で買った。
割と高級なお茶。結局そればかり飲んで過ごした。
中国人の庶民は高いウーロン茶よりも安く手にはいるモウリンホワ茶を飲む。
いわゆるジャスミンティー。これも特に食事の後に飲むと大変おいしい。
夜、日が暮れるのは午後9時。
中国は全土にわたって時差を設定していないため
中国西部にある成都も北京と同じ時刻を打つことになる。
そのうえ、中国ではサマータイムを採用しているので
夏の間は本来ならば1時間の時差がある日本とも時差がない。
成都は日本から見て経度で約30度西の方角にある。
そのため時計の針が午後9時を指しているということは
実質的に日本の午後7時に当たる。
ようやく暑さが和らいだ頃を見計らうように
成都の人々は夕闇の街へ夕涼みに繰り出す。
家族連れやらアベックやら。
この街にはこんなに人がいたのかと驚くくらいの人、人、人。
街のまん中を貫いて流れる錦江の川辺が濱河花園という大きな公園になっている。
照明灯のほとんどない暗い公園の中に
無数の人々が将棋や碁並べに興じ、
若者たちは愛をささやき合っている。
露店もさまざま。特に目についたのが成都名物の「火鍋」。
ぐつぐつ煮立った大鍋の脇に野菜やら肉やらを串に指して置いている。
人々はひと串幾らでお金を払い、シャイなウェートレス
自分の好きなものを鍋で煮てもらう。
冬ならさぞかしおいしい食べ物だろうにと、覗くだけにしておく。
ホテルでたまたま同室となった日本人・Iさんと
錦江沿いにあるレストランに出かける。
ここは川べりにビーチパラソルのようなものを出して
外で食べられるようになっているので
多少の蚊の攻撃を覚悟のうえで外で食べる。
メニューを持ってきたウェイトレスのお姉さんが
意外と愛想がよく、こうした女性にしては珍しく照れ笑いなどするものだから
我々二人はつい盛大に注文をしてしまった。
きくらげと豚肉の炒め物とキャベツの炒め物、
さらに名物麻婆豆腐。そしてご飯。
それにこの地方の峨眉山ビールを3本。
【Iさんと私。Iさんは横浜でSnap onの代理店をやってる人。】
【照れ笑いのウェートレス。この笑顔で我々は二晩通った。】
どれも四川料理とは言え、思ったほど辛くもなく
さっぱりとした後味で大変おいしかった。
食事の時は旅の疲れや先行きの不安など全てを忘れられるひとときである。
Iさんは35才の自営業。
これからチベット高原のラサまで飛んで、
そこからネパールまで自転車でヒマラヤ山脈を乗り越えようという
野望を抱いている。
この大きな中国をさかなに話は深夜まで尽きなかった。
【成都の道ばたで売っていた薬】
左から熊の手、熊の肝、鹿の角、虎の手。
錦江飯店前の道で陽気なおねえさんが売ってた。
【やはり道ばたのタバコ屋】






