お題箱でのリクエストでてちぴっぴです。

どうぞー。






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平手side






「動かなきゃ何も変わらないよ」






何でこの人にそんなことを言われなくちゃいけないんだろう。


膝の上に乗せた拳を握りしめた。






「ねえ」


「…」


「あんたはこのままでいいの?」


「…」


「…あのさ」






「愛佳?」


「ごめん茜、すぐ行く」






ほら。


この人は私と違う。


迎えに来てくれる友達はたくさんいるし、家に帰ったら暖かい家庭だって多分ある。


だから私に構わないでよ。






「はぁ」






不意に私に伸びる手。


殴られる。


そう思ったから、目を瞑って歯を食いしばった。


それなのに、






「待ってるからな」






志田さんは私の頭に手を置いて、あっさりいなくなった。




















気づいた時には味方なんていなかった。




学校に行けば、上履きがなくなってるなんてことは日常茶飯事。


教室にある自分の机は傷だらけ。


ロッカーの物が全部捨てられていることもある。




家に帰れば、暴力が待っている。


制服に隠れた生傷は数えきれない。




周りに助けを求めれば冷ややかな目で見られ、口先だけの同情で溢れる。


だから私は諦めた。


この人生はそういう人生なんだと。


抗いようのない波に飲み込まれて失われていくのだと。






今さらなんなんだよ。


救いの手を求めることなんてとうの昔に捨てたのに。


待っていたときには来なかったのに。


どうせあの人だって結局は何もしてくれないくせに。






「くそっ…」






ガンッ、と机を蹴っ飛ばす。


じんじん痛む爪先を押さえようと下を向けば、床に落ちる水滴。






「…帰ろ」






帰りたくないけど、他に帰る場所はない。


大きく傷の入ったカバンを持って足早に教室を出た。










「あー、やっと来た」






なんで。






「おっそいよ」






どうしているの。






「あ、来たの?」


「ああ、茜まで一緒に待つ必要なかったのに」


「いいじゃん、私もちょっと興味あったんだから」






早く。


早く帰ろう。






「あ、ちょ、ちょっと待って!」






何?


私はあなたに用なんかない。






「そんなに睨まないでよ。別にイジメたいわけじゃないんだから」


「……


「ん?」


「やめて、ください」






中途半端な優しさはなおさら私を傷つける。






「私は、いいんですこのままで」


「…」


「帰ってください…!」


「やだね」






無意識に肩がピクリと震えた。


心なしか心臓の動きも速い。






「だから」


「待ってるって言ったじゃん」


「え…?」


「待ってるって言ったから、帰らない」


「…」


「大丈夫、私たちはあなたを傷つけない」






顔を上げて目を合わせた。


泣いてた。


私じゃなくてあなたが。


綺麗な涙を流していた。






なん、で


「ダメかな?」







「………


「ん?」


「お願いします…私を裏切らないでください…」


「なんだそんなことか」






ポスッと腕の中に収まる。


…あったかい。






「もちろん、裏切らない」


「信じてもいいですか…」


「うん」






一方的に回されていた腕を回し返した。






「助けて、ください」


「あははっ、その言葉待ってた。茜、理佐に電話して」


「理佐?」


「あいつんち、部屋空いてるから貸してもらう」


「おっけー」






本当に良いのかな。


迷惑じゃないかな。


やっぱり…。






「こら」


「へっ?」


「今ネガティブなこと考えてただろ」


「そんな」


「良いんだよ、思いっきり頼って甘えとけば」






頼るなんて考えたこともなかった。


相手がいなかったから。


でも、今なら。







「…はい」


「おっ、笑顔可愛いじゃん」


「え…///」




「理佐良いってー」


「さんきゅー。行こっか」






一緒に前に進んでくれる人を見つけた今なら。


私は変われるかもしれない。






「ねえ、何て呼べばいい?」


「何て…」


「平手さんだから…平手さん、平手ちゃん…てちだな」


「てち…」


「いや?」


「全然そんなことないです」


「私は愛佳でいいから。あ、こいつは茜ね。あと敬語禁止」


「ぴっぴじゃないの?」


「黙れ」


「??」


「そうやって呼んでほしいって前言ってたの」


「だから黙れ」


「…ぴっぴ?」


「っ、もうそれでいい」