主人公:志田愛佳
ザーザーという音で目が覚めた
布団から腕だけを出してカーテンをめくり外を見ると案の定雨が降っていた
数秒外を見たあと、逆再生のように腕を布団の中に戻し再び目を閉じた
私は雨が嫌いだ
雨が降ると髪は整わないし、服は濡れるし、靴も汚れるし
でも晴れの日も嫌い
理由は簡単、日焼けするから
もちろん風が強い日も嫌いだし、雪の日も嫌い
でも台風の日は好き
理由は分からないけど、なんとなく好き
昔から好きなものと嫌いなものがはっきりしていた
可愛いクマのぬいぐるみ…嫌い
クールなドクロの貯金箱…好き
ヒラヒラしたスカート…嫌い
ズタズタなダメージジーンズ…好き
ハートの形のイヤリング…嫌い
蜘蛛の形のピアス…好き
私は私らしく生きることにした
流行にも逆らった
ロングが流行ればショート
黒髪が流行れば髪を染め
誰よりも早くピアスも開けた
でも世間はそんな私を受け入れてはくれなかった
私は私らしく生きてるだけなのに、周りからは『変わってる』とか『怖い』とか『不良』とか…勝手に人を決めつけて、評価して、否定して、誰も本当の私を見てはくれなかった
志田『いってきまーす』
二度寝しても相変わらず降り続ける雨を睨みながら、傘をさして家を出る
家を出る前には、雨のせいで靴下が濡れるので替えの靴下を鞄に入れ、雨のせいで肌寒いのでパーカーを羽織った
細心の注意を払い水溜まりを避けて歩いたけど、学校が見えてくる頃には結局靴下に雨が染み込んでいた
その不快感にイライラしていると、ビニール傘越しに生活指導の先生が校門前に立っているのが見えた
志田『そうか…今日は遅刻チェックの日か…』
私の高校では毎月全校朝礼が行われ、その日の朝は遅刻者を取り締まるという楽しいイベントが開催されている
めんどくさいなと思いつつ裏門へと向かう
裏門から入り体育館裏を抜け、自分の教室がある校舎へと向かう
遅刻をしたときにいつも使う道だ
バレないように辺りを見渡しながら進んでいると
『おはようございます、本日は…』
体育館では全校朝礼が行われており、生徒会長の挨拶が聞こえてきた
志田『生徒会長って大変そうだなぁ…遅刻もできないだろうし』
そんなことを考えながら体育館裏を通過した
下駄箱で濡れた靴下を新品に履き替え、誰もいない教室へ到着した私は窓際の自分の席に座り、首に掛けていたヘッドフォンを耳に装着する
誰もいない教室
そこに一人でいる自分
私はこの時間が結構好きだった
世界に自分一人になったみたいで
でも不思議と孤独ではない…そんな時間だった
人の気配がして目が覚めた
どうやら寝てしまったみたいだ
全校朝礼を終えた生徒たちがさっきまで誰もいなかった教室にぞろぞろと入ってくる
耳にしていたヘッドフォンを外すとクラスメイトたちの声が聞こえてきた
『ねむかったねー』
『相変わらず生徒会長の話長いし』
『誰も聞いてないのにね』
『しかも何か偉そうだし、あいつ嫌いなんだけど』
『わかる!私も嫌い』
『理事長の孫で金持ちのお嬢様だからって調子のってんじゃない?』
『あんまり悪口言ってると退学にされちゃうよー』
『こわーい』
『キャハハ!』
本当にこういうのうんざりする
志田『うるさいなぁ…』
つい言葉が口に出てしまった
『ねぇ…今の聞いた?』
『聞いた聞いた、やな感じ』
『でも変なこと言うと不良仲間呼ばれちゃうよー』
『こわーい』
『キャハハ!』
こんな世界に嫌気がさして、またヘッドフォンで耳を塞ぎ一人の世界に戻る
放課後
部活に入ってない私はいつもならすぐに帰るんだけど、今日は日直の仕事が残っていた
志田『花瓶の水…OK、日誌…OK、あとは…花壇の水やりか…』
教室の棚からじょうろを取り出し、中庭へと向かう
中庭は昼休みにはお弁当を食べる生徒でいっぱいになるけど、今は放課後…誰もいない
花壇の水やりを済ませ教室に戻ろうとしていると、二階の生徒会室に数人の生徒が入っていくが見えた
生徒会は放課後活動してないし、そもそも生徒会長一人しかメンバーもいないハズなんだけど…
私は様子に見に行くことにした
二階にあがると、丁度さっきの生徒たちが生徒会室から出てきた
『どうなるかな?』
『さぁ、しらねーw』
『あいつが調子のってるのが悪いんだよ』
『この前トイレでタバコ吸ってたのチクったお礼だって』
『さすがに理事長の孫でも終わりでしょw』
『さっさと逃げようぜ!』
そう言ってどこかへ消えていった
姿が見えなくなるのを待って生徒会室の扉を開けた
生徒会長がリンチにでもあってるのかなと思ったけど、中には誰もいなかった
けどそこには生徒会室という場所に似つかわしくない物があった…灰皿と火のついたタバコが
志田『…そういうことか』
全てを悟った私はタバコを手に取り、生徒会室の奥にある水道に持っていこうとした…その時…
『何をしてるんだ!』
背後からの突然の大声に驚きながら振り向くと、生活指導の先生がこっちを見ていた
志田『いや…火を消そうと思って…』
そう答えた瞬間、ハッとした
…この状況…私が犯人か…
先生『とにかくタバコを置いて、そこに座りなさい』
机を挟んで向かい合う私と先生
志田『だから知りません…』
先生『知らないわけないだろう!正直に言いなさい!お前がやったんだろ?』
志田『だからたまたま通りかかっただけで…』
先生『だいたいな…うちの高校の校則が緩いとはいえ、髪は茶髪、耳にはピアス、制服の上にパーカー…お前みたいな奴が風紀を乱すんだ!』
志田『別に校則は破ってないじゃないですか』
先生『そういうことじゃないだろう!周りの他の生徒は校則に書いてなくてもちゃんとしてるぞ?』
志田『…』
先生『なのにお前は何で列を乱すんだ?そんなことだから周りに溶け込めないんだぞ?』
志田『…』
先生『わかってるのか志田!』
学校という場所は奇妙なところだ
個性を出せと言ったり…周りに従えって言ったり…
似たような服を着て、似たような髪をして、似たような表情で生きていくことに何の意味があるんだろう…
誰かと違うことに何をためらうの?
私は私らしく生きていく自由があるんじゃないの?
それを諦めてしまったら…私は何のために生まれたの?
先生『聞いているのか志田!』
志田『もう限界…うんざりだよ…』
先生『なんだ!その態度は!』
…どうせ誰も私を信じてくれない…茶髪だから?ピアスしてるから?…そんなことで判断しないでよ!…本当の私を見てよ!
先生『そう言う態度なら保護者の方に来てもらうしかないな』
志田『や…やめてください!親に迷惑はかけたくないんです…』
先生『お前が本当のことを言わないからだろ!』
志田『いや…だから…』
先生『とにかく電話してくるからここで待ってなさい』
そう言って先生は生徒会室から出ていった
私はまた一人になった
私…何のために学校なんて通ってるんだろ?
しばらく考えたけど、答えは出なかった…
…もういいや…ごめんね…パパ、ママ…
ガラガラ
扉が開く音がした
電話してきたにしては早いなと思っていると
『えっと…あなた誰ですか?』
明らかに先生ではない声で質問が飛んできた
その声に反応し、扉の方に目線を向けるとそこには生徒会長が立っていた
志田『…志田愛佳…です』
菅井『ここで何してるんですか?』
志田『生徒会長こそ何でこんな時間に?』
菅井『家に帰る途中で生徒会室の鍵を閉め忘れたのを思い出して…それで戻ってきたんです』
だからあいつら入れたのか…
菅井『で…何してるんですか?』
志田『まぁ色々あって…簡単に言うとタバコを吸って先生から怒られてたところ。ちなみに先生は今私の親に電話しに行ってる』
菅井『ここでタバコを吸ってたんですか?』
志田『本当は吸ってない』
菅井『どういうことですか?』
志田『私はたまたまここを通りかかって、そしたらたまたま生徒会室で誰かが吸ったタバコが残されてて、たまたま火を消そうとしたときに、たまたま先生に見られただけだよ』
菅井『では冤罪ってことですか?』
志田『えっ?今の信じたの?』
菅井『嘘なんですか?』
志田『まぁ…たまたまここを通りかかったって言うのは嘘かな』
菅井『じゃあそれ以外は本当ってことですね?』
志田『さぁね…』
菅井『ちゃんと答えてください!』
純粋な目でまっすぐに見つめられ…この子には嘘を言ってはいけない…そう思った
志田『…本当だよ…タバコなんて吸ってない…信じて』
いまさら"信じて"なんて言うとは思わなかった…けど何故か…この子には信じてほしかったんだ…
菅井『分かりました、信じます』
即答…当然のように"信じます"か…この子が信じてくれてる…それだけで救われた気がした
志田『よし!…これで決心がついたよ』
菅井『どういうことですか?』
志田『私…学校やめるんだ』
菅井『えっ?どうして?』
志田『何か疲れちゃって…そもそもタバコの件で停学は確定だろうし』
菅井『先生に本当のこと言えばいいじゃないですか?』
志田『そうだね…でも誰もが生徒会長みたいには信じてくれないんだよ』
菅井『そんなこと無いですよ』
志田『理事長の孫でお金持ちのお嬢様には分かんないよ…不良の私と優等生の生徒会長じゃ住む世界が違うんだよ…』
菅井『そんなこと無いです!』
志田『そんなことあるんだよ…生徒会長』
菅井『そんなこと無い!』
志田『優等生の生徒会長にはわからないよ…』
菅井『うるさい!』
生徒会長は机を両手で叩き、すぐさまタバコの箱を手に取った
私が驚いて呆然としていると、彼女はタバコを取り出し口にくわえ、火を付けた
菅井『…ケホ…ケホケホ』
煙にむせている生徒会長を見て我にかえった私は彼女の手からタバコを取りあげ急いで水道で消火した
志田『なにやってるの!?』
当然の質問だった
菅井『ケホケホ…皆私のこと「お嬢様」とか「優等生」とか言うけど…そんなの本当の私じゃない!私だってタバコくらい吸うの!』
志田『…それは嘘だろうけど』
菅井『もう二度と…ケホケホ』
志田『…二度と?』
菅井『もう二度とお嬢様なんて言わないで!そういうの…もううんざり!あと…私の名前は生徒会長じゃない!菅井友香!』
そうか…この子も私と同じなのか…
菅井『私だって…好きで理事長の孫になったわけじゃない!生徒会長だって誰も立候補しないからって押し付けられて…なのに…』
私…最低だ…
志田『…ごめんね…勝手に決めつけて、評価して、否定して、本当の生徒会長を…いや本当の友香を見てなかった…』
頭を下げる私に、友香は首を横に振り、謝らなくてもいいと言ってくれた
菅井『…私の方こそ、いきなり取り乱してごめんなさい…』
志田『ビックリしたよ!色々と』
菅井『でも…わかってもらえてよかった…ありがとう』
志田『それはそうと…もう嘘でもタバコなんて吸ったらダメだよ?タバコ吸うと死んじゃうんだから!』
菅井『えっ?そんな大袈裟な。確かに寿命は縮まるかもしれないけど…すぐ死ぬとかはないよ』
志田『本当だって!だってパパとママが言ってたし…』
菅井『ウフフ…』
志田『なに笑ってんの?こっちは真剣に話してるんだけど!』
菅井『志田さんって意外に純粋なんだなって…』
志田『どういう意味?』
菅井『こんな純粋で可愛い人が周りからは怖がられてて、不良って思われてるなんて考えると可笑しくて…ウフフ』
志田『…バカにしてるでしょ?』
先生が帰ってくる前にタバコの臭いを逃がそうと、窓を開けると、朝から降り続いていた雨はいつのまにか止んでいた
その辺にあったノートを使って二人で必死に扇いでいると、そのお互いの必死な顔が可笑しくて、二人揃って笑い合った
菅井『ねぇ愛佳…先生に正直に話そう?正直に本当の事を言えば信じてもらえるよ』
志田『正直に本当のことをか…まぁ試してみるか』
友香は一緒にいると言ってくれたけど、一人で大丈夫だからと先に家に帰らせた
生徒会室には、私一人になった
しばらくすると先生が戻ってきた
先生『志田、ご両親二人とも電話にでなかったから取り敢えず話の続きをしよう』
志田『先生あの…私吸ってません』
先生『まだそんなこと言ってるのか』
志田『いやだから私はたまたま居合わせただけで…』
先生『じゃあなんで手にタバコを持ってたんだ?』
志田『いや…だから…火を消そうとしたんです』
先生『火を消すなら灰皿でいいだろ?』
志田『そんな方法知りませんでした…』
先生『はぁ…もういい加減白状しなさい。喫煙で捕まったのはまだ初めてみたいだから、正直に言えば退学じゃなくて停学で済ませてやるから…な?』
ほらやっぱり…正直に話したところで、どうせ誰も私のことなんか信じてくれない…
もういいや…ごめんね友香…
志田『別に退学でもいいです』
そう言って立ち上がり、扉の方へと歩き出す
先生『おい待て、どこへ行くつもりだ!本当に退学にするぞ!』
その声を無視して歩みを続ける
すると私が到着する前に扉が開き、帰ったはずの友香が入ってきた
菅井『先生!』
先生『どうした、何か用か?』
志田『何で友香…帰ったんじゃ…』
友香は私の横を通りすぎ先生の前まで進んだ
菅井『志田さんはタバコなんて吸ってません』
先生『どういうことだ?』
菅井『私、中庭を挟んだ向かいの図書館から一部始終を見てました。他の生徒がここでタバコ吸っていて、そのまま放置していったんです。そのあと志田さんがたまたま通りかかって、そしたらそこに先生が…』
先生『…そうなのか志田?』
志田『え?あ…はい』
先生『…そうか…証人がいてよかったな志田!生徒会長に感謝しろよ!』
志田『だから最初から私じゃないって言ってたじゃないですか!』
先生『…じゃあ先生は真犯人を探すからこれで…生徒会長は鍵閉めよろしくな』
そう言うと先生は私と一度も目を合わせず、そそくさと生徒会室から出ていった
志田『とりあえず…ありがとう…かな』
菅井『どういたしまして』
志田『本当に見てたの?』
菅井『いや全然』
志田『正直に本当のことを言えって言ったのは誰だっけ?』
菅井『友達の為ならたまには嘘も必要ってことで』
志田『調子いいなぁ…ていうか、いつの間に友達になったの?』
菅井『私と友達は嫌?』
志田『嫌じゃないけど…』
菅井『じゃあ改めて、友達になろう?』
志田『無理だよ生徒会長と私みたいな奴じゃ』
友香はあきれた顔をしてため息をついたあと、先生が忘れていったタバコに手を伸ばす
菅井『じゃあ私が不良になる!私タバコ気にいったみたいだし』
志田『わかった!わかったからもうやめて。嘘もバレバレだし』
菅井『じゃあ…』
志田『今日から友達ってことで…』
菅井『うん!よろしくね』
志田『…よろしく』
菅井『あっ…ちなみに私って自覚はないんだけど世間知らずみたいで…』
志田『だろうね』
菅井『だからで色々教えてもらえるかな?』
志田『例えば?』
菅井『友達って具体的に何するの?』
志田『そうだね…えーと…』
菅井『あっそうか…愛佳も友達いないんだった…』
志田『うるさい!そんな可哀想な目で見るな!』
生徒会室の鍵を閉め、念入りに確認して、下駄箱へと向かう
靴を履き替えていると
菅井『そうだ!今から駅前のパンケーキを食べに行かない?』
志田『えーやだよ!そんな可愛いの…一人で行ってくれば?』
菅井『ハァ…そんなわがまま言ってると、またタバコ吸っちゃうよ?』
この子なら本当にやりかねないと、慌てて友香の手を引っ張り、下駄箱から外に飛び出した
志田『さぁパンケーキ屋さんはどっちだ!』
菅井『ウフフ…』
志田『どうしたの?いきなり笑いだして?』
菅井『ウフフ…何だか分からないけど楽しくて!』
志田『アハハ…そうだね!』
彼女の可愛さの中に上品さの混じった様な笑顔につられて私も笑ってしまい、それからしばらく二人でただただ笑い合った
とっくに雨の上がった空には、大きな虹がかかっていた
私の好きなものと嫌いなもの
ピンクのフリフリワンピース…嫌い
ブラックのイケてる革ジャン…好き
駅前の可愛いあまーいパンケーキ…嫌い
ママが作ったできたてのコロッケ…好き
人の陰口を言って笑うような人間…嫌い
何でもないことで笑いあえる友達…好き…かな?
本当の孤独は誰もいないことじゃなくて、誰かがいるはずなのに一人にされることなんだ
おわり