小嶋たちの話をまとめるとこうだ。


出発してしばらくの間、篠田率いる旧ラッパッパチームは誰にも会うことはなかった。

途中山本彩の遺体を森の中で見つけたが犯人は見ていない。だが、首が切断されており、板野の話によると梅田を殺した犯人と同一人物である可能性が高いという。

警戒しながらも更に奥地に進むと松井珠理奈に会った。しかし珠理奈の様子がおかしかったため、集落のことは伏せたまま説得を試みたがいきなり切りかかられ玲奈が負傷、それでも玲奈が説得をし続けたが珠理奈は応じなかった。

板野が止めに入ってなんとか逃げたが板野も怪我を負ったため、篠田と小嶋が玲奈と板野を背負って帰路についた。


「致命傷ではなかったと思うし一応2人とも自力で歩けたんだけど、玲奈ちゃんは足をやられたし、ともちんは出血が酷くてね。あの状態での捜索は難しいと思ったし、無理はさせられないと思ったから」

篠田が悔しそうに拳を握り締めた。


その後、運悪く横山に出くわしてしまい、とにかく2人を守るために篠田と小嶋が囮になったが、その結果板野たちとはぐれてしまった。

板野たちを探して歩いていると再び珠理奈に会ってしまい、焦った小嶋が転んで絶体絶命。悲鳴を聞いて駆けつけた大家が小嶋を庇い傷を負った。




「しーちゃん、あのときは本当にありがとう。しーちゃんが来てくれなかったらどうなっていたか」

「いやぁ~体が勝手に動いちゃって何がなんだか」

「かっこよかったよ」


小嶋と篠田に持ち上げられて大家ははにかんでいた。



そのときは篠田が発砲して珠理奈は退いたため、大家の手当てをするために集落に向かった。

万が一はぐれた場合は無理に捜さず集落へ戻るという約束をしていたため、板野たちも自力、あるいは偶然出会った他のメンバーに助けられて集落に戻っているかと思っていたが、放送で名前が呼ばれた…。


「多分珠理奈は怪我してる。それからこれは憶測だけど、梅ちゃんと彩姉を殺ったのは珠理奈じゃないかと思うんだ」

珠理奈の武器がチェーンソーだったこと、珠理奈のベルトには複数の首輪がぶら下げられていたことを篠田が告げた。


「…そっか」

黙って聞いていた高橋が頷いて優しい笑顔を見せた。

「危険な目に遭わせちゃってごめんね。でも2人が無事で戻ってきてくれてよかった。しーちゃんも。本当にありがと…」


パンッ

高橋の言葉は突如響いた乾いた音に遮られた。

秋元が寝室のドアを開けると、ほとんどのメンバーがそこにいて、大家の容態を聞くために押し寄せた。


「しーちゃんは?」

「才加は医者じゃないからなんとも…でもやるだけのことはやったよ」

「手を洗ってくるね」と言って、秋元・宮澤・倉持の3人は部屋を出た。


指原が恐る恐る寝室を覗くと大家がVサインを掲げているのが見えた。

「しーぢゃぁぁぁん」

泣きながらバタバタと駆け込む指原の頭を高橋が小突いてたしなめた。

「こらっ!しーちゃんは安静が必要だから静かにっ」
「うぅっごべんなざい」

「さっしーありがとう。ちゃんと聴こえたよ。」


「でも選曲がなぁ~…『川を渡れ』とか縁起でもないやん」

大家が苦笑する。

指原が歌っていたのはRIVERだったのだ。

「えぇ~だって応援ソングだよぅ」

「だから『大声』にしようって言ったのにぃ。元気出るし♪」

「いや、『上からマリコ』でしょ。しーちゃんの初選抜の曲だよ」

小嶋と篠田がお盆を持って入って来る。

「はい、みんなお疲れさま。しーちゃんは今は湯冷ましで我慢してね」

湯気の立つカップを手渡していく。


「あれ?こじはるさん?指原の分はないんですか?」

「リビングにあるよー」

不服げな顔をして指原が寝室を出ると篠田が鍵をかけた。


「しーちゃん大丈夫?」


小嶋がベッドに腰を下ろすと大家が大きく頷いた。


「たかみなには何があったか話さなきゃと思って」


峯岸と渡辺は西の森へと走った。

「まゆゆ本当に大丈夫?危ない…てか命の保証はできないよ」

「大丈夫です。ゆきりんがあんなに頑張ってるのに、私が甘えているわけにはいきませんから」

きっぱりと言った渡辺麻友の眼に曇りはなかった。

「わかった。ね、それなに?」

「首輪に反応するレーダーです。これがあれば見つけやすいかと思って。あれ?」

覗き込むと3つの点がすぐ近くに迫っていた。

「3つ?」




「みぃちゃん?!やっぱりみぃちゃんだ!」

「陽菜!麻里子さま!」

「えーん、みぃちゃんどうしよう、しーちゃんが大変なの」

篠田の背中には大家が背負われていた。

話を聞くのは後にして、集落へと急いだ。


「ただいま」

「にゃんにゃん!麻里子さま!」

「ベッド空けて、早く!」


篠田が叫ぶ


運び込まれた大家は腹部が真っ赤というかどす黒かった。


寝室に座っていた柏木と指原が驚いて見つめる。


「早く手当てしないと」

手当て…と言ってもここには医者はいない。


「診療所で見つけた医療道具や傷薬ならあるけど…」

戸惑っていると、苦しそうな声で大家が言った。


「…なんでもいいよ。やって。しーちゃんはできませんは言いません」

辛いのだろう。
汗だくだ。

それでも心配をかけまいと笑顔をみせる。


「わかった。」



傍で見ていた秋元が手袋を着けると、倉持もうなずいて手袋をした。


「やるしかないんだ」

秋元の声が聞こえた気がした。

高橋は慌てて他のメンバーを部屋の外に出すと自分は枕元に残り、大家の手を握り締めた。


「しーちゃん、麻酔とかないから痛むかもしれないけど、頑張って」

秋元の言葉に大家は頷くと舌を噛まないようにと渡されたタオルを口につめこんだ。

「佐江、足押さえてて」

「わかった」


大家の服を切って脱がすと腹部に大きな傷があった。
ガーゼで血を拭き、消毒液をかけると大家の顔が苦痛で歪み、声が漏れた。


♪♪♪


そのときドアの向こうから歌声が聞こえた


指原の声だ。

泣いているのだろう。

音程はめちゃくちゃだ。

それにひとり、またひとりと声が加わり、やがて大合唱になる。


誰よりも下積みが長く、AKB一の苦労人と言われる大家志津香。


長い年月をかけ、やっと芽を出したタンポポのような大家。

その芽を守りたいと思う気持ちは皆同じだった。

その気持ちが歌になり、大家の耳に届く。

「しーちゃん、がんばれ」

みんなからの応援歌だ。



高橋の手にも力が入る。

綺麗に装飾された大家の爪が高橋の小さな手に食い込んで血がにじんだ。しかしそんな痛みは屁でもなかった。


永遠のように感じられたその時間は秋元の声で終わりを向かえた。


「よし」

傷を縫い終わった秋元も汗だくだった。

倉持が交代して包帯をグルグル巻いていく。


大家は肩で息をしていたがいくらか楽そうだった。


技術も知識もない、素人の手術だ。
これで助かる保証などない。

あとは大家の驚異の回復力にかけるのみだ。

「終わったぁ」

倉持の声に大家を含む全員が安堵の息を吐いた。

「ありがとう」

微笑んだ大家の頭を高橋が優しく撫でた。


「よく頑張ったね、しーちゃん」