海の綺麗な街に引っ越して4ヶ月。
明日の朝に退居することになった。
もうトンビの声で目覚める事がないかと思うと、寂しい。
母の遺してくれた、なけなしの10万円と
同額の貯金で。
心機一転、頑張るつもりだった。
ダメだった。
私には前に前に進む、休む事を知らない原動力があると思っていた。
甘いと思い知らされた。
母がもっと強い人だったら‥‥何度思ったか知れない。だけど、一番食べたいものは
母の塩むすびだし、何より、双子の赤ちゃんを連れて
実家に帰っていた時、入院していた母が退院して
ぽむちゃん
と呼んでくれた時の安堵といったら言葉にならない。
アパートに泊まりに来た大きくなった双子に「ダメなママでごめんね」と言うと「それでいーんだよ!」と返って来た。
母性とはなんだろう。
私は少なくとも、子供らしい可愛い子供ではなかったし、母に悪態をつく事も多かった。
それでも今一番会いたいのは母で、話したいのも母だ。
年老いた柱の父に何かあったらどうしようかと、40にもなって子供みたいに不安になる。弟がいてくれて良かった。
子供はいつまで経っても子供だ。
このアパートは、自分自身を見つめる為の貴重な空間だった。
孤独や不安や落胆と共に、真っ青な海や満天の星空があって。
住めて良かったと思う。
アパート最後の夜は快晴で星が綺麗だ。
幸い新しい職場では上手くやれそうだし、母がどんな思いで貯めたであろう10万円を胸に。
また新たな出発。



