声楽の世界で「女性は男声を指導出来ない」と言われていると聞いたことがある。もちろんすべての女性声楽教師がそうではないだろうが(実際、素晴らしい男声歌手を育てる女性声楽教師の方もいらっしゃるとの事)。確かに女性のほうが声が軽く、出し方や必要な筋力も?男性とは違うので、指導が難しいのかなと思っていた。
そこで、例の声楽教師である。彼女は30代半ば程のメゾ・ソプラノだった。彼女は「声をマスケラに響かせるのが重要。だから声を眉間に集める必要があるのです」と言っていた。更に「音が高くなるにつれて額、頭のてっぺんに移行するのです」等言っていた(そのワリに前へ出せばいいですよとしか言わない、他の事に関してもボキャブラリーがあまりにも少ない)。
指導通りに歌っていたつもりだったが、喉の不調に陥った。私自身の問題だろうと思っていたが、腑に落ちないところもあった。
そこで、「この発声法に対して疑問がある」と言うと、その声楽教師はキレてダンマリを決め込んだ(まあしかたないか)。私は「ああ、この女はキレると黙りこくるのか」と思ったが、そんな事お構いなしに捲し立てるように質問を浴びせた。しかし、依然ダンマリである。
だいたい普段からこちらの質問にまともに答えないのである。
私がある有名なドイツ人バリトン歌手について、「あの人は他の人とは発声が違うが、どう違うのか?」と尋ねると、「あの人はー他の人とはー発声が違うのでー」とオウム返しにし、挙句の果てに、「あー!そういえばー、わたしー、この間ー、幽霊見たんですよー!!」と、私に譜面台投げつけてやろうかと思わせてくれるような、質問と全く関係のない事を嬉々として言うのである。
だが数分後、彼女は沈黙を破り、こう言った。「高音を出す時は、軟口蓋を上げ、舌を下げるのです。そうする事によって、口腔内のスペースを広く保つのです。その際口は縦に大きく開き、そして、マスケラに響かせる為、声を眉間に集めるのです。こうしなければ高音は出せません!私達日本人の骨格上、こうせざるを得ないのです!!」
しかし、その方法によって発せられた彼女の高音は、常にカチカチに固まったような声であり、へばり付いた感じでもあった。
またその際の表情は、目を見開き、さながら何かに恐れおののくかの様であった(高音出す度幽霊見えるのか?)。
そして、こう言った。「その際の支えは下腹部です。下腹部を子宮口へ引き上げるのです」と。
私は男である。従って子宮は無い。このような説明では理解出来ない。
女性特有の臓器を持ち出して説明されてはお手上げである。
この声楽教師が特別な例なのかも知れないが、こういったところも
「女性は男声を指導出来ない」と言われる所以ではないだろうか。


