結婚相談所から申し込んだ11才歳上力石徹に似た方とは既に交際終了とされたが、12月に入りクリスマスを一緒に過ごしておる最中。
六本木ミッドタウンのレストランは、
クリスマスの為に何処も混んでおる。
力石に、
レストランの予約はしてあるのかと尋ねると、
していないとか言う返事。
クリスマスに、
予約無しでミッドタウンに食事に来たのだ、適当過ぎる。
力石は、中学から大学まで誰もが知る華やかな私立を出、就職先でもモテる王道を歩んで来た。
学生時代にはスクラムを好んで組んできたこの男しかし、53歳にもなると、人混みは苦手なんだとか言い出す始末。
ところで、クリスマスに都心で予約無しでレストランに入りたい場合は、クリスマス風から少し外れた高級店を選べば入れる確率は高まる。
例えば、芝のとうふ屋うかい、
例えば、銀座の鎌倉山ローストビーフ、で駄目ならそのまま下の階の柿安。
と、それとなく彼に言うては見た。
しかしだ、この男が高級店に行く筈も無い。
それで私は、ミッドタウンの地下にある茅乃舎に行こうかと提案する。
そこは食事が出来る上に、混んでいても回転率が良さそうである。
そして先程、サラダバーで何やら葉っぱを馳走されたものだから、次は私が身銭を切ろうとそう決める。
エスカレーターに乗っておる時に力石は、
茅乃舎の気分じゃ無いなとか言い出す。
私は、ああそうかなどと一応笑うが、
内心はうるせぃこの糞、とか、当然思うておる。
まあ一般的に口には出して言わないだけだ。
それで、茅乃舎を見ると今なら空いているから、
入るかと力石に尋ねたが、
他の店に行こうと彼は言う。そして、
ハンバーガー屋の前で歩を止める。
その店も既に行列が出来ており、
並んでおる間にラストオーダーを迎える危険性もあると店員に言われて時計を見れば、
ラストオーダーまであと30分しかない。
私は何だか疲れて、
逆に後30分我慢すれば帰れるのか、という考えに切り替わる。
彼が、茅乃舎に行けば良かったかな、と言うておるので、だったら入れるか見に行ってくれたら良いなと答える、
男だったら、クリスマスにデートするなら、
頭にキリリとハチマキでも巻いて来い。
私が力石を顎で使うことは今まで無かったから、
彼は若干、狼狽えながらも茅乃舎に向かう。
その間に私は、
数年前のクリスマスを思い出す。
姉の家で、ゲームをやりたいと言う中学生の姪に携帯を貸すと、LINEポコパンをインストールした上に凄い勢いで勝ち進み、
気付けばタイムラインにはおびただしい勝者の記録が、終了した婚活相手を含む知り合い全員に通知されておった。
クリスマス・イブの夜に、
女独りでLINEポコパンを激アツで殺りまくりしかもかなりの腕前だと思われた、
もう本当に勘弁して欲しい。
そんな過去よりは、今日の方がマシだ。
と、果たして言えるのか。
そして力石が戻ってくると、
もう茅乃舎はラストオーダーを迎えてポールが立てられていたと言う。
では、
と私は歩き出す。
ここも入店は無理そうであるから、今日はもう帰るとしよう。