妻と私は良く、めし屋をはしごしていました。

若い頃の話ではありますが。

1軒目で食べ終わって爪楊枝咥えて店を出た路上で、「そば食いに行こうか?」。

なかなか出るものでは有りませんよこの言葉は、めし屋から出てきて直ぐですから。

普通はお茶でしょう。

ところが私達夫婦にはごく普通の日常会話だったのです。

何度かは近くに別の店が無かったので同じ暖簾をくぐり直したんですからね。

まあ平和だったんでしょうね私たち夫婦は。

それをちょっと思い出したのが先日立ち寄った尾道での出来事です。

「尾道ラーメン」というのが有るんだと知り、試しに食べてみるかと思ったら祭日のためか店には長蛇の列が。

並んでまで飯を食べるという訓練がされていないので、

「なら母ちゃんが好きだった穴子丼だな」と別の店を覗いたら「すみません、今日は板前が一人で・・・」

「えっ、それは此処で食べるのはやめておいた方が良いとおっしゃってるんですか?」

「いえ、待っていただければ・・・」

ごく普通の待ち時間で出された穴子丼を食べて出てきて徘徊していたら、ラーメン屋がそろそろ空き始めていた。

「ラーメン食うか?」って普通に言えてしまったんですよ。

でも、たぶん、おそらく、絶対、田舎の「一●士」(ピッ)みたいに美味くもないのに行列が出来る店なんだろうなと思って入ったらこれが美味かったんですよ、いりこ出汁効いてて。

尾道ってよく知らなかったんですが、なんか風情有る街だなあと思っていたら。

「東京物語」のロケ地だったんですね。

そういえばスクリーンであの善人以外の何者でも無い老夫婦が暮らしていた所だよ。

 

 

 

この海岸通りを原節子が歩いたんだなあ。

と、尾道を離れてから気が付いたんですよ。

やっぱり穴子丼とラーメンのはしごしたんやろか?(せんやろ)。

小津安二郎好きなんですよ、ゆかりの地近くに住んでることもあって。

田舎の近くに記念館があって、裏の空き地の夏みかんを盗って食べてるんですよ。

あっ、これは小津監督も若い頃にやってたことなのね。

今回の旅行は道後温泉だけをサーチして行ったので見逃してしまったものも有ったな。

松山で通りすがりに偶然、伊丹十三記念館を見つけて入ろうとしたら休館日でやんの。

宮本信子に会いたかったなあ(居らんやろ)。

伊丹十三って巨匠だと思うのに今の人は知らないのな。

私ら世代はラーメン食うときは必ず「タンポポ」思い出すもんだけどなあ。

伊丹十三を知らないんだから小津安二郎なんて知らんわなあ。

原節子演じる古き良き日本女性なんてもんはスクリーンの中にしか棲息していないしね。

まあでも、今も平和なんだろうなあ。