s君は小学校の同級生で地元に留まって地域社会に貢献してきた。

今までずっと元気であったが、時間の経過が私と同じように体に作用してきた。

視力が極端に落ちてしまったという、特に左目が悪いようでほぼ見えない、職漁師の彼の日常に影響を与えだしたようだ。

鮎釣りに使う極細の糸が絡んでしまうと、迷わずさっさと車に乗って家に戻り、娘に直して貰って又出直すんだと言う。

なんとも面倒くさいことをやらなければならなくなった。

一方で猟師のほうの仕事は鉄砲の狙いを定めるのが右目なので助かっているそうだ。

趣味の土建屋の社長業は廃業した、裏帳簿をつけて税金をごまかすのに飽きてしまったらしい。

本職と趣味があべこべではないのかとも思ったが間違ってはいないらしい。

s君が今まで本気でやってきたことは漁師と猟師で、それ以外ではなかった。

s君は今後も体が自分の言うことを聞く限り仕事を続けていくそうだが、それを無くしたとき、生きる糧(希望)を無くしてしまいそうだと言う。

誰しもそうだろう、でも何とか生きて行けるものですよ、もうすでに無くしてしまった人の方が多いのだから。

 

 少し時間を遡って、

別の同級生の家に押しかけていって「先日の釣行の約束は本当なんだろうな?」とはったりを言ったら素面で豆鉄砲を食らったような顔をしていたが、私の気迫に怖じ気づいて「もちろん」と言って釣り道具を出してきた。

立派な道具の数々である、彼の生きる糧であろうことは間違いない。

一通り丁寧に釣り方のレクチャーを受けて、釣行日も決まった。

最後に「大きなクーラーボックスは有るのか?」と聞かれた、

無いと言うと「二つ有るから」と、ついに本気になったようだ。ハハハ