メガネが汚れているのが嫌いで、いつも服の裾やティッシュで拭いては汚れが落ちたことを確認している。
遠視用・老眼用・遠近用3つのメガネを薄くなった頭部に積み上げてとっかえひっかえして忙しい。
視界は隅々までクッキリ見えなければいやなのだ。
そんな、視界へのこだわりは時として目に大きなダメージを与えてきた。
汚れて見えない溶接面を使うのがいやで、裸眼でアーク溶接をやって目を焼きかけた。
100w電球をかざしてしたたる汗をタオル鉢巻きで受け止め、制御盤に首をつっこみリレーを替え続けた。
大雨の夜シールドを上げたヘルメットから飛び込む雨粒に痛いほど目をたたかれた。
視力だけが自慢だったのに今はもう残念なことになってしまった。
と、ここまで書いて思い出した。
戦時中の学徒動員で薄暗い工場で働かされていた先生の体験談を。
薬品の蒸気が立ちこめる工場では直ぐにメガネのレンズはすりガラスのように曇っていったそう。
替えのメガネなど有るはずも無く、先生はやむなくレンズにグリースを塗って凌いだのだという。
何となくは分かる(すりガラスよりはましだろうな)が、ぼやけた視界では良い仕事は出来なかっただろうなあ。
それで日本は戦争に負けたんだと先生は大まじめに言っていた。
今日またメガネ3連装で畑仕事をやっていると片方の目の焦点が合わない。
焦点は合わないが視界には何も邪魔ものが見えないさわやかさで、汚れたレンズの存在感がない。
すると、あれっ、レンズが無いよ、外れて落ちたようだ。
いつ外れたのか心当たりが無い。
畑の土に混ぜ込んでしまったようだ。
フレームだけの眼鏡は一点の曇りもない。