遊び事である。
ここんところ気分が良いときにフッと頭に浮かんでくることがある。
川下りである。
カヤックで川下りしたいのである。
私の田舎の村は1級河川宮川の両岸に細長く展開する山里(というより山そのもの、女房は私の田舎のことを「ヤマ」と表現していた)。
ヤマの中学校では昔から連綿と引き継がれてきた”筏を組んで川を下る遊び”が伝統的行事として行なわれていた。
その伝統に傷を付けてしまったのが私達同級生だ。
中学校の裏手には直ぐ川が流れていた。
私達は放課後にこの伝統的遊びを実行する為、皆で何ヶ月もかかって川岸の大きな岩の上に筏を組んだ。
数年前に川がダム湖になってしまったことなど何も悔やまれることでは無く、かえって派手な進水式が出来ると喜んでいた。
そして進水のときを迎えた。
数人の生徒によって押し出された筏は”ザッブーン”と派手に水しぶきを立てて湖面に落ちた。
そして、その後、当然浮き上がってくるものと思っていた筏は湖底へまっしぐらに沈んでいった。
私達はそのとき”比重”というものを習ったことを思い出した。
私達が作った”樫の木の筏”はその比重によって湖底に沈んだままである。
宮川には二つのダムがあり私が住んでいるのは下流のダム湖畔である。
上流のダムから下流のダムまでの直線距離は21.95km(Googleマップ)、
川の実際の距離は並行する道路と等しいであろうから約29.5km。
この距離を1人で下り切ったとすると、これはもうたまらなく爽快であろうと頭に浮かんでくるのだ。
何で下るか?
筏か?ボートか?ライフジャケット一丁の生身か?
やってみたいのはカヌー(カヤック)だ。
昔、野田知佑にあこがれたのを思い出した。
思いが募ってSさんに相談をした。
実行するのに障害が有るか聞いてみた。
Sさん、「1カ所、滝が有る」
太郎、「落差は?」
Sさん、「4~5mかな~、乗っては無理だよボートだけ流して下で誰かに捕まえてもらうんだな}
誰かと一緒にやるつもりは無いので何か手段を講じることにしよう。
太郎、「ボート遊びの規制なんかは?」
Sさん、「キャンプ場所の規制は有るがボート遊びの規制は聞いたこと無いな~」
Sさん、「転覆したときの対処法については最低限レッスンを受けるべきだな、キョウスケ君の世話にはなるなよ」
キョウスケ君とは同じ集落に住む消防士の人だ。
確か野田知佑も沈(チン)についてその様なことを述べていたとは思うが、
レッスンを受けて(金つかって)やるつもりはない、達成感が阻害される。
アドベンチャーはチャレンジャー精神で行なうものだ。
イメージトレーニングだけで沈は対処出来るような”気”になってきた。
Sさん、「ヘルメットは被れよ、それと、今の体型ではチョットどうかと思うよ~」
専用のヘルメットは如何にも~で嫌だな、山仕事用で良いか。
確かに今の体型は何とかしないといかん。
アドベンチャーをする基本が外見に無いのは明らかだ。
・・・これが一番難しい。
が置いといて、
それより所用時間が予測出来ない。
約30kmの行程を時速4km(川の流れってどれくらい?)だと休憩無しでも7時間半かかる。
これはきついぞ~。
2時間の草刈りで死にそうになる私に出来るか?
遊び事のバイクではそれくらいの時間耐えられたけどね。
花子、「カヤックはどうやって運ぶの?」
太郎、「車だ」
花子、「その車どうするのよ?」
太郎、「上流に止めておく」
花子、「そりゃ分かるけどさ、車はカヤックに積めないことくらい」
太郎、「気が向いたとき取りに行く、当日は無理っぽい、日に2本のバスでは」
花子、「本当に”沈”は大丈夫なの?」
太郎、「イメージトレーニングでは水中で1回転して戻るときアユを咥えていた」
花子、「舟の上で食べるのね」
太郎、「日が暮れるとヤバそうだからな」
花子、「冷静に聞くけど、絵になると思っているの?」
太郎、「野田もオヤジだった、完璧な絵になると思っている」
花子、「やってみると良いわ」