もう10年以上も前だったかな、仕事に囚われてしまっていた頃の話だ。

毎日毎日来る日も来る日も朝も昼も夜も、仕事のことが頭を支配していて休まるときは無かった。

毎年梅の季節に休日が出来ると月ヶ瀬に走った。

それは私の都合で観に行くものだから梅の気持ちは分からず、未だ咲く前だったり咲き終わっていたりであった。

私は桜より梅が好きだ。

それには理由がある。

チコちゃんに聞いてみよう。

「桜が華やかなのに対して梅は控えめ謙虚なイメージがあるから」・・・それもある。

「桜が香らないのに梅はなんとも言えない良い匂いがするから」・・・それもある。

でもチコちゃんからは「ボ~ッと、生きてんじゃないよ~!!」

もっと決定的な理由は「桜の秘密を知ってしまったから~」なんだ。

標準木(標本木)を始め公園・街路樹・桜の名所等に有る桜の代表格はソメイヨシノになっている。

私(達)はいつの頃からか、桜と言えばパッと咲いてパッと散るソメイヨシノが日本(人)を代表する桜だとすり込まれてきた。

ところがそれは一種間違っていたのだ。

ソメイヨシノは近年(江戸時代)人の手によって作られた園芸品種の桜もどきだったのだ。

いつの間にか日本中に繁殖してしまい年中行事の夜桜を見ては酔いつぶれ、

「パッと咲こうぜ」とサラリーマンを拐かし、散りっぱなしの人生を作り続けてきたのだ。

何百年も生き続ける古来の本物の桜のように長生きは出来ず5~60年が寿命と言われている。

日本のいたるところで寿命を迎えたソメイヨシノが街の景観を壊して社会問題となったきた。

私はそんな桜に嫌気がして梅に乗り換えたのだ。

そして10年くらい前に月ヶ瀬で梅の鉢植えを買ってきてマンションのベランダで育て始めた。

私は気まぐれに梅に付いたカイガラムシを綿棒で取ってやりながら、不憫な梅と自分自身の境遇を重ね合わせていた。

これ以上の悪環境はないだろうと思える場所で梅は2、3年生き続け、狂った時期に花を咲かせてやがて枯れていった。

昨日そんなことを思い出しながら、又もや月ヶ瀬で盆栽梅2号を仕入れてきた。

今度は枯らさぬようにしよう、と思っている。