次なるドキュメント

 1枚のチラシからアルコール依存症専門医であるI医師の講演を聞いた私はI医師に好印象を持った。

私のことを心配してくれていた姉も新聞記事からI医師にたどり着いた。

アルコール依存症の治療は医学のメジャーな分野になく、よって専門医は少ない。

主として精神病棟での強制的断酒が一般的に採られる治療法となっている。

私は今まで酒について周りからとがめられたことが少なかった。

一度だけ、酩酊した私に呆れて妻がウイスキーのボトルを流し台に傾けたときも、

流れる琥珀色の液体を見て「何と愚かなことをするのだ」と思いながら反省することは無かった。

私と酒は切り離せない無二の親友のように思っていた。

その親友が病床にある妻に暴言を吐き私の心身を攻撃してきた。

自分で制御することが出来ず親友は悪友に変わってしまった。

姉はI医師の所へ相談に行き私の手記を見せた。

I医師は「良く自分が分析できているね」と言ったそうだ。

 3月9日、私は姉に連れられI医師の元を訪れた。

私は隔離病棟への入院だけは避けたかった。

妻を放っておくことはできない。

そんな思いから一方的に私はしゃべり続けた。

I医師はニコニコしてそれを聞いていた。

そして、

握手をしてくれた。

「頑張ってください」・・と。

I医師は薬も課題もなにも与えない。

自分で克服する以外に方法がないことを知っている百戦錬磨の経験則だろう。

「この人にすがってみよう」

素直にそう思った。