BMWの単気筒に跨ってみると、どうにもしっくりとくる。
ボクサーフルサイズは無理だがこいつならいけそう。
ROTAX製650が一発で蹴飛ばす距離を想像していた。
高価な商品が売れそうな予感に売り子は笑顔で傍を離れない。
決断しかけた私はしかし、店の片隅に古いYAMAHAを見つけた。
ずいぶん昔、憧れたGPレプリカ。
先のBMWの半値の値札が埃をかぶっていた。
「何故?こんなに安いのぢゃ」
「この年式でこのタイプはこんなものですよ~」
「これ、買うぢゃ」
「えっ!、どうして、BMWは?」
「秘密の事情、青春の煌めきかな」
「ひょえ~、こっちも秘密や事情が有るんですけど~」
「もう決めたぢゃ」
「BMWの方が似合っていますよ~」
「もう決めたぢゃ」
「不動車なので売れないですよ~」
「値札、付いてるじゃないか」
「訳有りで・・・しくしく」
「直してほしいな~。僕」
売り子はメカニックに相談に行く、長い密談の後チーフメカ登場」
「実は、ムニャムニャのゴニョゴニョ」
「宜しく頼む」
それから1ヶ月毎に”さっぱり進捗無し”の報告が続き、忘れかけた頃に修理完了。
んで、真夏に試乗。
股ぐらから火の手が上がっていると思って何度も飛び降りた。
メーカー製の2個1エンジン。
前2発はリードバルブ、後ろ2発はピストンバルブ、くっ付けてV4にした滅茶苦茶。
80年代当時のGP500はみんな2ストロークV4エンジン。
ロバーツ、スペンサー、ローソン、サロン、マモラ、シュワンツ、レイニー・・・。
キラ星のごとくまぶしく輝くGPライダーたち。
グランプリレースを知ってしまった者の必然でしょうか、夢中になる以外に道は有りません。
まぎれもない真剣な世界がそこに実在していた。
彼らの操る戦闘機はすべて日本製。
本物に似せて作ったレプリカの一台がこのYAMAHAです。
偶然に見かけた一台で昔の憧れがフラッシュバックしたのです。
戻れるはずのない青春の煌めきを得ようとしたのかもしれません。
メカのS氏は苦労をしてV4エンジンを修理してくれた。
国内仕様は各種規制が効き過ぎていて、
ケニーロバーツが「ステップはここ」と言った所には付けられない・・・自然な場所に植え直しましょう。
馬力が多いと事故も多いと無理やり馬を押さえ込んである・・・民族解放いたしましょう。
そんな調子で自分に合わせて改造して乗り始めた。
店長の友人が同型を所有しておりキャブレターをいぢり壊してしまった。
友人に泣きつかれた店長は私情で1台仕入れてきて部品を渡して良い恰好をした。
抜け殻の車体は偽装値札を付けて隠すように片隅に置き怯えていた。
私に見つけられて店長の悪さは発覚してしまったが優秀なメカニックが助けてくれた。
店長自身が語った事の真相である。
気長に待っていた私にも感謝しているらしい。
あれから随分経ったな~。
現在の高性能には遠く及ばないが私はそこそこ楽しいのです。
3本目のタイヤはなかなか減らない。