甲高い排気音が
私達の乗る列車を追い抜き、彼方に消え去った
ドップラーで音色が変わり
白煙だけが視界に残る
カワサキマッハでした
彼方の小さな点であった何物かが
異次元の速度で接近し
一瞬のすれ違い
後方に消え去った美しい姿
コスモスポーツでした
学生の頃に通った通学列車の車窓から
40年前に去っていったものを探す
鮮明に思い出すオートバイとクーペ
虜になった場所の風景は今も変わらず
走り去る姿は目に焼き付いている
変わっていく物と変わらぬもの
老いた肉体と醒めない精神
覚めたくない自分が思い出に縋る
楽しみを忘れてしまいそうだ
マッハの危うさとコスモの美しさ
魅了された訳などはっきりしている
危険と美が欲するすべてなのだ
マツダが社運を賭けたREエンジン
関わった技術者が教壇に立ってくれた
情熱を持っている人の喜びが伝わる
美しい初期型が優れ過ぎて、子孫は絶えた
カワサキが安易に生んだじゃじゃ馬
強烈な心臓を与えられた狂気の単車
白煙の先は悲劇、生き延びれる筈は無かった
所詮油まみれの機械やブリキ細工だと
解っている自分に失望してしまう
いつの日か純粋な喜びが訪れないものか
燻っている情熱が目覚めないものかと
くたびれた体を引きずって馬に跨るのです
車窓の向こう側に自分を置いておきたくて
