「平手さん、あ…あの…ずっと前から好きでした。付き合ってください!お願いします…」
あぁ、これで何回目だろうか。
『えっと…ごめんね。君のことよく知らないから、承諾できないかなぁ…』
「そう…ですか。ごめんなさい…」
『いやいや、そんな謝らなくても。むしろ謝るのは私の方だよ。良ければだけど…連絡先くらいなら交換してもいいよ?』
「…本当ですか?!えっと…是非、お願いします。」
私は、俗に言うところの"モテる人"らしく、女の子から告白されるのもよくある。
別に女の子と付き合いたくないとかそういうのじゃないけど、単純に恋愛的行動がめんどくさくて、今の今まで断ってきている。
流石に断るだけだと申し訳ないので、連絡先の交換程度はするけど。
「おーい!てちー!また告白されてるし」
『あ?うざい』
「え、酷くない!?」
私が普段通っている学校の廊下を歩いていると、遠くから駆け寄ってきた私の幼馴染。
『…ていうかぴっぴ見てたの?』
「お昼ご飯一緒に食べようと思っててちを探しに行ったら、偶然現場に遭遇したから!」
『はぁ…』
「なんで溜息!?」
私にウザ絡みしてきたのは幼馴染である志田愛佳。私はぴっぴと呼んでいる。
ぴっぴは最近同じクラスの子と付き合い始めたらしく、それ以降は告白される回数が激減したらしい。
『私も誰かと付き合おうかなぁ…』
「お、ついにてちが恋愛に目覚めた?」
『ちげーよ。ぴっぴ、付き合い始めてから告白される回数減ったんでしょ?告白断るのもツラいし、私も誰かと付き合えば良いのかなぁって。』
「なるほど、確かに減ったしなぁ…誰か紹介してあげようか?」
『ううん、平気。適当に選ぶから。』
「いや言い方よ。」
『…そう言えば、今日部活あるっけ?』
「あるよ。えっと…放課後ね。」
『ありがとう。じゃあ、ご飯食べよ。』
時間が経つのは早いもので、放課後。
私はバスケットボール部に所属しているので、放課後は体育館で練習している。
部室で着替えてコートに出ようとすると、ちょうど入口付近から声が聞こえてきた。
「渡邉さん、好きです。付き合ってくれませんか?」
「えっと、ごめんね。」
「っ…すいませんでした。」
告白シーンを目撃して、女の子が玉砕する場面だった。告白されてるのは、バスケ部のエースで後輩の渡邉美穂。
彼女はとても可愛らしい顔で、バスケをしているときはかっこいい。そのギャップがモテる原因だと思う。
「あ!平手先輩こんにちは。」
『こんにちは。えっと…大変だね。』
「そうなんですよ…言い方が癪に障るかもしれませんが、告白された時に断るのが辛くて…」
『その気持ちめっちゃわかる。相手を傷つけないようにしなきゃいけないしね。』
「ほんとそれなです。告白されない方法ないかなぁ…」
そうだ。
『えっと…提案なんだけど、渡邉さん、私と付き合ってみない?』
「え?それってどういう…」
『ほら、付き合えばさ、告白される回数も減ると思うから双方のメリットになると思う。』
「確かにそうですね。わかりました。えっと…よろしくお願いします。」
『ありがとう。えーと…デートとかそういうのどうする?』
「そうですね…怪しまれない為にも、行った方が良いかもしれませんね。」
『そうだね。じゃあ、今度の日曜部活休みじゃん。その日って予定ある?』
「あ、予定ないので大丈夫です。」
『良かった。あとさ、一応仮にも付き合ってるからさ、タメで話さない?』
「えっと…」
『付き合ってるのに敬語でいる方がおかしいじゃん。』
「確かに…えっと、わかり…わかった。」
『それで良し。じゃあ、お互い今日も部活頑張ろ。』
「うん。頑張りましょう!」
その日もいつも通りの練習をして、部活が終了した。
『あの、美穂。』
「(な、名前呼び…)えっと、平手先輩、何?」
『今日さ、一緒に帰らない?』
「…そうだね。帰ろ!」
『じゃあ着替えたら校門で待ってて。』
「うん、了解!」
「てち、一緒に帰らない?」
『ぴっぴごめん。美穂と帰ることにしたから。』
「美穂?あ、美穂ちゃんと付き合うことにしたの?」
『うん。だから、今日から一緒に帰れないかも。』
「了解。じゃあ私は愛しの彼女と一緒に帰ろうかな。」
『普段からそうしなよ笑』
「じゃあ、てちまた明日!」
『うん、また明日。』
『おまたせ、じゃあ帰ろ。』
「うん!」
二人ですっかり暗くなった歩道をあるく。
暗くなったと言えども、多少の電灯はあるので先の方まで見えるけど。
『そういえば。ぴっぴ以外と二人きりで帰るのすごく久しぶりだな。』
「そうなの?…私も友達と帰らないの久しぶりかもしれない。」
『これから暫くこうなるけど、よろしくね。』
「うん!」
部活の話や世間話など話してたら、お互いの最寄り駅まで着いた。
美穂とは降りる駅が違うので、電車に乗って、そこでお別れ。
『美穂、明日の朝もここで待ち合わせしよう。』
「うん。じゃあ平手先輩また明日。」
『また明日。おやすみ!』
そこから20分くらいで、私の家。
家に帰えると、すぐに制服を着替えベッドにダイブする。
夜ご飯食べなきゃ、メイク落とさなきゃ、歯を磨かないと。
色々とやることがあるのに、体が動きたくなくなる。ベッドというのは恐ろしいものだ。
『…今日は特別な日だなぁ』
振り返ると告白されて振って、同じ境遇の美穂と立場上の恋愛をする。
その日は、これからお互いの感情がどんどん大きくなるなんて、想像もしていなかったんだ。