其の部へと一歩足を踏み入れた瞬間、最初に目に飛び込んでくるのは、大きく重厚なオークウッドの机。

次に目をひくのは、机の全面に彫り込まれたローレリーフ。

此処を訪れた者は皆、これを見れば、此の屋敷の古さが分かると口にすると云う。

連勤魔術を得意とした、この家の創始者の手によるローレリーフ。

今、歴代公爵の執務を支えた此の机の前に立つ、此の家の家令。

 

 

「で?」

 

 

窓から差し込む光を背に、ペン先を紙の上で走らせ乍らの主の、言葉にもならぬ様な短い問いかけに、其の人は、まるで何時もの事と言わんばかり一瞬、顔を綻ばせた後、直ぐ様、その表情を戻し問いに答える。

 

「はい。閣下。先ほど、私が受けた報告では・・・御二方とも中々に御座いましたようで」

 

家令の応えに興味がわいたのか、紙を上を滑らかに走っていたペン先が一瞬ぴったと止まり。

 

「ほう。王城の内情に明るいギルならば、それもかわるが・・・リアもか・・・」

 

そう口にするも、主の顔は未だ机上に向いたまま。

そんな主の姿を気に掛ける様子もなく、家令は更に続ける。

 

「ルカ殿が仰るには、お嬢様は・・・」

 

此の家令の言葉を耳にした刹那、紙上を走っていたペンの動が止まり、机上にあった公爵の目線がゆっくりと家令へと向けられてゆく。

 

 

 

 

 

ルカは、嘗て王女付きの護衛騎士であったと云う。

怪我により騎士を退いた後は、ローゼマリーの侍従となり。

彼女の降嫁と供に、ランスロッド家に追従してきた者の中の一人。

それ故、ウンスーリアがどの様に教育され、また成長してきたのかをよく知る人物である。

 

ギルバートが仕掛けたのを皮切りに、手の内、腹の中を探り合う様な、態と的外れな会話を交わす祖母と孫。

平静を装いつつの、得も言われぬ様な空気漂う場面を目に、ルカは思案する。

王城からの招待を受けたのは、公爵、侯爵と辺境伯の高位貴族の家々。

また、伏されてはいるが、その家々の内、10歳から13歳までの子女を持つと云うのが、その条件と聞いた。

故に、此の茶会が開かれる真の理由を、きっと若様はご存知であろうし。

ならば、お嬢様は?

もしや・・・若様はそれを・・・。

“さて、これをどうしたものか。お、ここは何時ものように”

手袋をはめた片手を口元にあてると徐、小さな咳払いを「コホン」と一つ吐き出した。

すると、此の咳払いを合図にように、ギルバートがウンスーリアの肩へと手を伸ばし、さっと彼女の肩を引き寄せ、その恰好のまま、妹の顔を覗き込み、じっと目を見つめ。

 

「リア。また・・・って、それはないよ?そんな言い方をすれば、お祖母様が誤解なさってしまうだろう?」

 

“あら、度々、窓からお兄様がいらっしゃること。お祖母様がご存知なのをお兄様も・・・。それに、誤解?誤解・・・って。にしても・・・・お兄様。顔が顔が近すぎます”

兄の右手により引き寄せられた我が身。

ウンスーリアは、それを外すべく微動を試みる。

すると、其の微かな妹の動きに合わせる様に、ギルバートは僅かに離れた妹の肩を再度、更に引き寄せようと小さな動きを見せる。

だが、ウンスーリアは彼の手が、微かに肩から離れた僅かな隙をつく。

隙をつかれた兄は、降参とばかりに徐に手をあげた。

すると、ウンスーリアは半身兄へと顔を向け、じっと兄の顔を見詰め。

ウンスーリアに見つめられたギルバートが、瞬き一つの後、何かを待つような表情を浮かる。

が、次の瞬間、ウンスーリアの視線は兄から対面に座した祖母へ向かい。

 

「陛下主催のお茶会ですもの・・・目立たぬように・・・」

 

此処で、口を噤んだ後は、ただ満面の笑みを浮かべるだけ・・・だった。

 

ウンスーリアの満面の笑みを見た、ローゼマリーは無言のまま、小さく頷くだけ。

頷いた後、ウンスーリアの横に立つギルバートへは、一瞥を向けただけ。

 

「リアの『従』は、まぁ・・・優秀なようね」

 

と、意味深な言葉を残しウンスーリアの部屋から出て行ってしまう。

 

 

 

 

 

 

一族の肖像画が並び飾られた長い廊下。

其処をゆっくりと歩く主従。

前公爵夫人ローゼマリーの少し後ろ歩くルカが「クスッ」と思わず笑みを漏らしてしまう。

其れに、ローゼマリーは歩を進めたまま

「ルカ。何が可笑しいのです?」

「お嬢様は誠に聡明でいらっしゃる。ですが・・・」

 

此処で、ローゼマリーも思わず笑みを見せ。

 

「そうね。リアは・・・自分のことは全く・・・わかっていない」

「左様で御座います」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「処で閣下。陛下は何と仰せに?」