翌日、沖縄に戻ると、
空気の重さが少し違っていた。
湿り気を含んだ風が、肌にやさしく触れる。
帰ってきた、という感覚よりも、
「続きが始まる」ような気配があった。
その日は地域の「マチヌーウガン」
拝みの日。
班長として、園遊会の余韻を胸に抱いたまま、
祈りの輪に加わった。
御嶽に集まった人々の声は、
重なり合いながらも、不思議と静かだった。
言葉よりも、呼吸や間のほうが深く響いている。
そのとき、
風が一筋、頬をかすめた。
導かれるように
携帯カメラを構えた瞬間、
レンズの前を、何かが通り抜けた。
写真には、
光の帯のようなものが映っていた。
形ははっきりしないのに、
「通った」という感覚だけが残る。
まるで、
龍がそこを選んで通ったかのように。
太陽の光が揺れ、
風が、ほんの一瞬、踊った。
「首里城に行かなくちゃ」
その思いは、
考えるよりも先に、胸の奥から湧き上がってきた。
理由はなく、ただ“そうだ”と分かっていた。
首里城へ向かう道すがらも、
風は途切れなかった。
少し冷たくて、それでいて心地いい。
それは、
赤坂で感じた、あの風と同じ匂いだった。
水場に立つと、
火災で焼けた龍柱たちの記憶が、静かに浮かび上がる。
胸が締めつけられるような、あの頃の感情。
それでも、
責めるでも、嘆くでもなく、
ただ見守るような視線がそこにあった。
「つなぐ」
その言葉が、
心の奥で何度も反響する。
私は、何かを動かしているわけではない。
風の通り道のように、
流れるものを、ただ受け取り、渡しているだけ。
龍は、留まらない。
通り抜ける。
その道があるから、風が生まれる。
首里の風は、
確かに、そこを通っていた。
