福島県内で働く現役医師からの被爆に関する見解を紹介します。
 
 その方は東京出身の若い女性ながら震災後も福島に留まり、ペットレスキューのボランティアにも参加してくれています。
  ちょっと長文になります。
  
 
放射線による障害についての件です。
専門外ではありますが、自分(人医師です)の知識や同業者からの意見を基にして述べさせて頂きます。
(話を統一するために、線量はmSvに統一して話をします。超長文です。読んでる途中で寝るかも…。)

まず、外部被曝線量の許容範囲についてです。
Tさんが質問されている一日の許容線量ですが、それは規定されていません。
というのも、放射線障害は、積算量ではなく「急激にどれだけ大量に浴びるか」が重要だからです。
(生体には、ある程度の傷害を受けてもそれを修復する機能があります。一時的に傷害を受けても、修復できるレベルであるなら問題ありません。)

日本での自然界からの放射線量は1mSv/年(ちなみにブラジルならその10倍で10mSv/年)。
80歳の方は、これまでに80mSv被曝してきたことになります。
80mSvも浴びたから危険なのか?といったら、そんなことありませんよね。
なお、癌については(急激に)受けた線量が高くなればなるほど発症率が上がることが解っています。


胎児に対する影響ですが、妊娠の時期によって感受性が変わりますし、影響の種類によって許容される放射線量も様々です。
基本的には、どの妊娠時期によっても10mSv以下の(急激な)被曝量なら問題は発生しないと言われています。
ちなみにその線量に相当するのは、腹部や骨盤部CT検査(胎児被曝量:8~25mSvを数秒で受ける)です。

と、ここまでは教科書的な内容でした。
話を戻して、現在の帰還困難区域についてです
たとえば20μSv/Hの場所ならば、一秒間に受ける放射線量はその3600分の1にあたる0.0056μSv、つまり0.0000056mSvです。
桁が全然違うことがお解りいただけるかと思います。

なお、上記で述べてきた問題のある線量は、高線量被曝による影響を考えた場合の話です。
くろさんの仰る通り、
低線量被曝が持続した場合における人体への影響は完全に解明された訳ではありません。

しかし、これまでの様々な臨床研究の結果(チェルノブイリ、広島・長崎、大気圏核実験など)や、2012年にマサチューセッツ工科大学のチームが発表した論文(マウスに自然放射線の400倍の線量を5週間照射し続けたがDNAの損傷が確認されなかったという内容)などから考えると、
低線量被曝(外部被曝に限る)による生体への影響は無いだろうと私は考えています。
チェルノブイリ事故の場合、国土の大半が深刻な汚染を受けたベラルーシでは、確かに子供の奇形率や腫瘍発症率が上昇しました。これは、事故のことが報道されて住民が避難に至るまでに事故発生から4~5日経っていたこと、その間に外部および内部被曝を相当量したこと、避難先も放射能に汚染されており、その地のものを食べることによって内部被曝が継続的に起こったこと(一般市民が食物を持ち込んで放射能検査をするシステムが導入されたのはかなり後のこと)が原因と考えられています。つまり、問題になるのは内部被曝です。

現在まで、福島県内において各所でホールボディーカウンター検査が行われています。
普通に生活している人達、適切に避難した人達には内部被曝は確認されていません。
内部被曝が確認されているのは、極度の食料不足の中、生きるためには事故直後に汚染地域でとれた野菜などを食べるしか無かった方々がほとんどです。
つまり、帰還困難区域でキノコ狩りなどしてバクバク食べたりしなければ、マスクを外すのは必要最低限にしていれば、内部被曝をする可能性は極めて低いと考えられます。
また、現段階では福島県内での小児奇形や小児腫瘍発症が増えているということもありません

帰還困難区域内で、20μSv/Hの場所で5時間作業し続けたとすると、100μSv=0.1mSvになります。
(なのでTさんの仰っていた0.07mSvは妥当な積算量だと思います。)
日本-アメリカ間を飛行機で移動すると、片道0.1~0.2mSv被曝します。これとほとんど同じくらいですね。
日本の旅客機乗務員の業務上年間被曝量は平均3.79mSvだそうですが、パイロットや客室乗務員の子供に障害が多いという話は聞いたことがありませんし、そのような論文もヒットしませんでした。
 
イメージ 1
▲葛尾村の民家。雨樋の下は高線量だが、普通の空間線量は0.6μシーベルト程度に下がってきています。


なお、様々な専門家の方がくわしい話をどれだけ行っても、聞き手側がその内容を受け入れなければ意味がありません。
聞き手側がその内容をどのように受け止めるかは、その人次第です。
私は上述のように受け止め、放射線に不安を抱く患者さんにも同様の話をしています。
そして、ボランティアの皆様がどのように考えて行動するかも各個人次第です。もしこれまでに放射線の影響についてをきちんと考えたことが無い方がいるならば、この機会に一度きちんと考えてみて頂きたいと思います。
その上で「やっぱり低線量被曝にはリスクがあるだろう」と受け止めたなら、その考えに従って行動をした方がよいでしょう。
ただし、リスクが「ある」と考える人と「ない」と考える人の間で論争をすることは無意味です。結局、思考は本人のみに属するものですから、他人に対して強制できるものではありません。



ちなみに、放射線は体内でフリーラジカルを産生し、それがDNAを傷つけます
用心するに超したことはないですし、正しく怖がる必要はあると思います。

ただし、フリーラジカルは放射線だけが原因で生まれる訳ではありません
現代社会で最もフリーラジカルを産生している原因物質は、間違いなくタバコです。
その他、大気汚染物質(ダイオキシンやPM2.5など)、発癌性物質(加工食品などにもある程度含まれる)、携帯電話や家電製品の電波、ストレスなどなど。

放射線の怖さは「どんな影響がおこるか知らない、解らないこと」「目に見えないこと」から来るものと思われます。
それなら、どんな影響がおこるか既に実証済みのタバコ、大気汚染物質、発癌性物質については、放射線以上にもっと怖がるべきなのではないでしょうか。

本気で気を付けるなら、放射線だけを特別扱いするのではなく、それらにも同様に気を配るべきだと思います。
(実際、癌にはできるだけなりたくないと思っている私は、世間一般よりはそれらに対して気を付けていると自負しております。)
 
 
 
 以上です。
 放射線を無暗に怖がり、福島や東日本から避難する人、福島に一度も来たことがないのにやたらと福島を恐れる人、ぜひ、参考にしてください。
 
 
 また、私も「福島に住んでいて大丈夫なの? 」と県外の人に聞かれることがありますが、福島では原発被災地以外ではほとんどの人が避難せずにふつうに暮らしています。まして福島は面積が広いので、中通りや会津よりも原発からの距離は茨城県北部や宮城県南部のほうが近かったりします。
 
 私も震災後からずっと避難せずに福島に居ますし、震災直後に第一原発の正門に入ったり、線量の高い場所で活動していますが、大丈夫です。ただし、タバコは吸いません。