私はいてもたってもいられなくなり、また恐怖に駆りたてられ、大家に話に行くことにしました。

これは告げ口と言うのかもしれません。しかし、もうそんなことにこだわって発言を控えるのはできないくらい、私も恐れおののいておりました。

大家とは、スタンドの弁償に反抗した経緯もあり、かなり険悪な関係になっていたのですが（苦笑）、そんなのも気にしていられないほど、私も焦っていました。

大家に、

ねじを抜いたのはSである可能性が高いことを、シールでべたべたにブロックされた扉の写真を提示して、これまでその核心に至った経緯を説明しました。

大家もおばさんで、この小さな扉の細工にはその時気が付いたようでした。

そして、スタンドがどういう経緯で壊れたかについてもリマインドしました。

「あのスタンドも、ねじが抜かれたたのが故障の原因だったよね？」

大家も、それで大体のことを理解したようでした。

私は、あの人はおかしい、だから本当に気を付けたほうがいい、退去日まであと数日だけど、気を抜かないでと伝えました。

そもそも彼女の退去日は、11月末の予定でした。

しかし、彼女は何やら問題を抱えていたようで、ビザ延長申請を出してその間はジュネーブにいるということで、大家に12月前半まではいられるように話をつけていたようです。

具体的に退去日はいつになるのかというのを聞いてもSはいつも、

「この家には盗聴器が仕掛けられていますので、そういった機密情報は教えられません」

とバカげた言い訳をして教えてくれませんでした。

しかし、大家は、12月13日が退去日だとその時教えてくれました。

私は、「本当に気を付けてください」と念押し、ここで初めて、「Sは統合失調症だと思います」と切り出しました。

大家は、私が彼女に対して感じていた危機感を、私ほどは感じていないようで、

「Sはパラノイアだとは思うけど、彼女は暴力的ってわけじゃないから…」

と、私の進言を受け入れつつも、あまりなびいた感じもありませんでした（それまで私がかなり反抗的な態度をとっていたことも逆効果となっていたことはいうまでもありません）。

Sが統合失調症である可能性を疑い始めたのは、10月頃からです。

私も、自分なりに、統合失調症について調べてみると、Sのことを言っているではないか！と、その典型的な既視感に襲われました。

（上記症状名は、次のサイトを参考にしました）

また、一連の事件が収まった後に、統合失調症に関するmemoir 'The Center Cannot Hold: My Journey Through Madness' を読んでいると、「ねじ・くぎ」に対する執着の言及もありました。

襲われるかもしれないという恐怖心から、武器になり得るねじ・くぎを常に持っていたということです。

著者のElyn R. SaksのTed Talkもかなり興味深いのでぜひ：

また、（こちらは偏見を含みます）「テクノロジー犯罪被害ネットワーク」というNPOの会員であるという事実も、Sが統合失調症の重症患者ではないのかという疑いを濃くしました。

私が大家と会話をした週末明けの一週間、つまり、Sの退去日である

12月13日にむけ、事態は急展開を迎えることになります。

狂怖同居人記録⑤